第6話 フォルテの旅
両親は、わたしの発言に戸惑っていた。
「今なんといった?」
「ゼム将軍および、それに手を貸している闇の勢力を撃滅しに参ります、と申したのです」
「まことか。フォルテ?」
「はい。あの者たちは、ゼム将軍の使いでしょう」
両親に、事情を説明した。
わたしが生きていると知ると、将軍はまた部隊を率いて襲ってくる。
両親二人は、座っているわたしの肩を抱く。引き留めるかのように
「待つのだ。もうどこへも行かないでおくれ。フォルテ」
「そうですよ。あなたは今まで、寝たきりでしたもの。ムリなんてしなくていいの」
優しい両親は、わたしの旅を許可しなかった。
だが、二人の好意に甘える訳にはいかない。事情があるのだ。
「これでも、わたしを止めますか?」
わたしは、自分の目を二人に見せた。
「お前、その目は?」
両親が、わたしの顔を覗き込む。
「目の色が変わっていますよね?」
手鏡を用意して、自分でも変化を確認した。
わたしの目が、赤く光っている。魅惑的であり、恐怖で身震いした。自分の姿なのに、鏡に映っているのは明らかに魔王である。
スルッと、わたしの髪が一本抜け落ちた。それはボンヤリと黒く光り、コウモリの羽を持つ小悪魔の姿を形作る。
『我が名は、魔王レメゲトン。この瞳は、我と同化した証拠ぞよ』
「魔王と一体化したのか?」
『左様。手を貸す代わりに、肉体を提供してもろうた。まあ、取って食う訳ではないゆえ、安心せい』
魔王と同化したわたしが、この屋敷にいてはいけない。
また、魔王がわたしの体内でおとなしくしている保証もなかった。暴れたいのは、魔王も同じだから。
「わたしは部屋で支度をします。メイドたちを呼んでおいてください」
部屋に入って、できるだけ地味めな服を用意する。
「旅で使えそうなものは、こちらですね」
登山で使うロングパンツが見つかった。生地を引っ張ってみると、丈夫そうである。が……。
「生地が硬すぎて、動きづらいです。ふん!」
ロングパンツの丈を、引きちぎった。ハサミで調節して糸を通し、一分丈のショートパンツにする。
人の手を借りず、自分で着替えた。徒手空拳で戦うから、パンツルックでいいだろう。
村娘風のロングスカートを、棚から見つける。一回も、着たことがない。
「あとはこのスカートも、ふん、と!」
生地を引っ張って、スリットを入れる。
パンツ上に、スリットの入ったスカートを穿く。足の運びが、見えないようにするためだ。
エントランスに、メイドたちが集まっていた。よかった、誰もケガをしていない。
ベレッタはわたしの服を、秒で直してくれた。お裁縫なら、この子に任せておけばよかったか。いや。ここから先は、すべてわたし一人で行わなければ。
「みなさん、さようなら。わたしは、死んだことにしてください」
「そんな! フォルテお嬢!」
料理長であるポニーテールの少女が、前に出る。
「貸しなさい、アキコ」
わたしは料理長のアキコから、ハサミを取り上げた。自分の髪をジョキジョキと切る。
「これでよし」
長かった髪を、ショートボブカットにまで短くした。
「ありがとう、アキコ。あなたにはこれを。暗殺者からドロップした、暗器です。これを自分用の武器に加工すれば、狩りがはかどるでしょう」
「ありがてえ、フェルテ様」
鉱石を受け取った料理長が、下がる。
「メイド長ベレッタ、ポーションの瓶を」
わたしはメイド長のベレッタから、ポーションを受け取った。
「ふん!」
中身を飲み干して、空のポーション瓶の底を切り取る。銀製の細い棒と繋げて、丸メガネに変えた。趣味の銀細工が、こんな局面で役に立つとは。
メガネをつけて、鏡を見直した。目が、元の青色になっている。
魔族になってしまった目は、これでごまかせるはず。認識阻害の魔法も加えて、令嬢フォルテの名は捨てる。
「あなたにはこれを。暗殺者が持っていた、毒薬です。これで魔法の研究ができましょう」
「恐れ入ります、フォルテお嬢様」
ベレッタが下がった。
最後に、一番小さいメイドにカギを渡す。
「ミニミには、部屋の鍵をあげましょう。わたしの部屋にある本を、全部読んでいいですよ」
「ほんと? ありがと、フォルテさま」
「ただ、もし王子が起きてきたら、あなたがついていって差し上げて。しっかりと見張っておくのですよ」
「わかったー」
別れのあいさつは、済んだ。
「では、わたしは冒険者の……フォトンとして生きていきますので。これで」
フォルテとレメゲトン、合わせてフォトンである。
冒険者フォトンとして身分を隠し、ゼム将軍に一矢報いるのだ。
(第一章 完)
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