第4話 暗殺者を、筋肉で撃退する。

「弱いです。使い魔なんて、こんなものですか。もっと張り合いのある相手がいいですね。たとえば……あなたとか」


 物陰に何者かが潜んでいると、わたしは察知していた。


 暗殺集団か。もしもわたしが死ななかったら、直接殺そうとしたのだろう。


「よろしい。かかってらっしゃい」


 武器はないが、わたしは拳を固めた。指を鳴らして、相手を威嚇する。


「フォルテ様! 大事ありませんか?」


 メイド長のベレッタが、わたしに駆け寄ろうとした。


「来てはいけません、ベレッタ! あなたは両親を守って!」


 暗殺者は複数だろう。家に入れるわけにはいかない。


「ですが!」


「指示に従いなさい!」


「は、はい!」


 後ろを振り返って、メイド長を下がらせる。


 そのスキを、暗殺者が見逃すはずがない。やはり、懐に飛び込んできた。


「ええ、そうでしょう。この時を待っていました」


 わたしは暗殺者にハグをして、背骨をへし折る。


「少々お待ちを。あとでリンチしてあげます」


 ボン、と、わたしは跳躍した。


 二階の窓から入ろうとした暗殺者に飛びついた。


「玄関からお入りを」


 そのまま、暗殺者の肩を握りつぶし、地面へ叩きつける。


 最後の一人は、わたしに真正面から飛びかかった。手にはナイフを持っている。


 暗殺者の身体が、直角に吹っ飛んだ。ピキ、と心地のいい音を鳴らし、絶命する。全身の骨が砕けたのだろう。


「これぞ、正真正銘の闇バイトですね? ゼム将軍に指示されたことを、後悔させてあげましょう」


 さっき背骨を破壊した暗殺者の身体を、実験のように潰していく。


 体の動きが、軽い。普通、寝たきりからまともに動けるようになるためには、多少のリハビリが必要のはず。


 自分が動けるようになったらやりたいことを、毎日脳内でシミュレートしていたためか。


「どうなさいました?」


 暗殺者ともあろう方々が、足が震えてらして。


「そんな覚悟で殺しにくるから、足元をすくわれるのです。こんなふうに!」


 わたしは死体を、森へ投げ飛ばす。


 茂みに隠れていた暗殺者が、死体をぶつけられて土の中にめり込んだ。



 人を殺しても、なんのためらいもない。魔王が憑依したためだろう。


「魔王なのに、魔法はほとんど使わないのですね?」


「接近戦のほうが、楽しいからのう。後ろから魔力の弾をパンパン撃っても、つまらん」


 とにかく、素手で賊を全員殺した。


 だが油断はできない。相手はゼム将軍だ。何か仕掛けてくるかも……。


 と思っていたら、死体がビクビクとうごめく。


 殺したはずの病魔が、賊の死体を食って再生したのだ。全身ガイコツとなって。


「やはり!」


 ゼム将軍は、別名【死霊使いネクロマンサー】とも言われている。死んでからが本戦なんて、冗談ではない。


「これぞ我が真の姿! 死に魅入られていればよかったものを!」


 死の香りが、より膨れ上がっていく。


「フォルテ令嬢、貴様には死より苦痛を差し上げ――ごほおお!」


 魔物がしゃべり終えるより早く、わたしは魔物の腹に一撃をくれてやる。両肩を掴んで、ヒザを見舞った。


「どうなさいました? 死より苦しい痛みを与えてくださるはずでは?」


「な、バカな」


「本当の痛みというのは、こういうのをいうのです」


 アッパー気味のハイキックをアゴにヒットさせた。魔物を空高く、打ち上げる。


「クソが! なぶり殺してやる予定はナシだ! 一瞬でぶっ殺してや――」


 トン、とわたしは跳躍した。魔物の心臓部に、足刀を突き刺す。


 つま先から、わたしは魔王の魔力をモンスターへと流し込む。


 魔物の全身に、電流のような速さで魔力が駆け巡った。わたしが一七年間受けた苦痛の数倍の痛みを伴って。


「バカな。ゼム将軍の切り札、がぁ!」


 相手の体組織すべてを崩壊された魔物の結末は、爆発だった。


 夜だった空が、一瞬だけ昼間のように明るくなる。

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