第3話 病魔をぶっとばす

 ボクは、フェターレ。王都ダメリーニの第一王子である。


 愛するフォルテ・マッスリアーニに、変わらぬ求愛をしにきた者だ。


 実は近い将来、ゼム将軍の娘との結婚が決まっている。

 が、ボクはフォルテが好きだ!


 なのに麗しの婚約者の命は、もはや風前の灯と言うではないか。


 今日は、万病に効くという秘薬を手に入れた。幾多の野山を駆け回り、世界中からの治療法を学び、この秘薬にまでたどり着いたのだ。これが効かずして、なにが効果があろうか!


 この薬を飲めば、彼女はたちまちよくなるだろう。


 さあフォルテ、ボクが取ってきたこの薬を――おうっふ!


 なにか大きな物体が、フォルテの部屋から飛んできた。


「ああ! 薬が!」


 なんと、ボクが取ってきた薬が、木に当たって割れてしまったではないか。


 これでは、愛するフォルテを助けられない。ボクはなんて、ダメな人間なんだ!


 しかし、ボクを突き飛ばしたあの少女は何者だろう。フォルテの部屋から降ってきたような気が。愛するフォルテは無事か……なんだこの、ムキムキ女性は? 


 あっ!


「キミは、フォ、フォル、テ。無事だった、の、か」


 ボクは気を失った。


 そのムキムキ女性が、フォルテだと気づいたときに。




=== === ===

 

 

 わたしは病魔ごと、屋敷から着地した。ヒザ蹴りのまま、病魔を地面に叩きつける。


 屋敷の三階から落ちたというのに、傷どころか痛みもなかった。


「これが、新しいわたし」


 ムキムキとなった自分に、思考がおいつかない。細マッチョな自分が、まだなじんでいないのか。


『ほほう。フォルテよ。こやつ、使い魔であるぞ』


 庭に転がっているモンスターを見て、魔王レメゲトンが助言をしてくる。


「使い魔とは?」


『誰かに指示されて、動いておる。何者かお主を殺すために、放ったのじゃ』


 ならば、聞き出さねば。


「誰に命令されていたのか、言いなさい」


 地面でのたうち回る病魔に、問いただす。


「げゲハは。ダれガ言ウか」


 だが、魔物は暴れるだけで口を聞こうとしない。


「早く」


 足を一本、踏み潰してやった。


 どのみち、このモンスターは生かして帰さない。


「パギャアアア!」


 また、魔物は絶叫して暴れだす。それでも、頑なに口を割ろうとはしなかった。思考する頭がないのか、命令されて動いているだけか。

 あるいは、飼い主がよほどのクズなのだろう。


 わたしは、そのクズに心当たりがあった。


「大方、ゼム将軍あたりでしょうね」


 隣国に仕える、有力者である。


 野心家のゼム将軍は、この肥沃な土地一帯を狙っていた。そのため、嫌がらせをしてくることも多い。将軍が仕えている王都はまだマシなのだが。


 父上は気丈な方だったが、わたしの世話に気を取られ、なかなかゼム将軍の対処ができないでいた。


 もしかすると、わたしを弱らせたのはゼム将軍かもしれない。 


『使い魔の痛みは、術者にダイレクトに伝わる』


「それはすばらしいですね。もっと、なぶりましょう」


 わたしは、魔物の折れた方の足を掴む。そのまま、魔物の背中を岩に叩きつけた。


「待て! 話す! 話すから許して!」


 魔物がようやく、口を開く。話す気になったようだ。


 だが、もう遅い。


「もう、しゃべれなくしてあげますね」


 わたしが受けた、一七年分の痛みを、わからせる。


 何度も岩に、魔物を叩きつけた。顔の原型を留めないほどに。絶命しそうになったら、魔力を注ぎ込んで傷を直した。回復次第、また潰す。


 自分の力を試すには、ちょうどいいかもしれない。


「やめテくれ! やメてえェ!」


「イヤです。あなたは一七回殺します。わたしに嫌がらせをしていた一七年分の怒り、思い知りなさい」


 わたしは、使い魔を岩ですりつぶした。


「まマま待っテぐへェ!」


 とうとう、一度絶命して終了しまったようだ。


 もろすぎだ。一七回殺そうと想ったのに。

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