急転直下

 なんかしら陰謀かと思って間もなく、リョドの足元に死風が噴き出した。ちょうど、察したらしい虫が大急ぎしたが、しばらくもせず死風に呑まれた……虫はころり、傷もなくひっくり返った。


 青ざめた、次の瞬間、死風が足先に触った。吹き上がって足首の肌にあたる……リョドの今日の靴下は短かった。すぐに吐き気がある。

 吹き起こさぬよう静かにすばやく椅子に上った……椅子がぐるり回る、体が傾いた、いけない、


 なんとか照明の吊り下げをひっつかむ。40にはきつい。吐き気もまだある。

 火事場の馬鹿力でくい、ぐい、粘って椅子を引き寄せてから、机に跳び移る。

 気づけば玉の汗をかいていた。


「あぁ!? なんだ!」


 椅子の座面くらいの高さはもう沈んでしまった。まだかさ増してくる。


 誰がこんな馬鹿やった? 俺のやることが不満なやつか?

 そんでどうすりゃいい? どうやったら勘弁してもらえるというんだ?


 いずれこの部屋は壁の機構で、外側を閉じられ、切り離されるだろう。死風に真っ逆さまだ。落下死のほうがよっぽど楽だからという理屈らしい。

 こうして今日の「大丈夫」を守るために明日の大丈夫を殺すわけか?


「ふざけろ!!」


 ひびの拡がっていく音。


「だめだ……まて……」


 噴出し、死風が一室になだれ込んだ。

 カチリという。


 壁の機構は、見事、リョドを突き落とした。






 走馬灯に思った。

 この噴出圧は間違いない。盆地外の死風が滝であるわけがない。もう海のように満ち満ちているから、こんなに激しく噴き出してきたのだ。






「……ァ?」


 リョドはかくして黄金の大地に堕ちた。

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