7日目

『拝啓 日々刻一刻と夏めいていく中、元気で、如何お過ごしでしょうか』



 義母があなた宛に手紙が来た、と持ってきた手紙を見た瞬間に飛び込んできたのが、明らかに彼女が書いたものではないほど綺麗な文字で書かれた宛名だった。


 下の名前が書かれている訳ではないので義母や他の家族宛の手紙かもしれないが、義母はまっさきに僕のところに持ってきた。


 きっと差出人が誰なのかを、見てなんとなく察してから僕のところに来たのだろう。顔がありったけの不機嫌の様相だ。


 義母が不機嫌な床に就くと色々面倒なので、受け取る際に「ありがとう」とだけ返しておいた。でも、手紙の内容は聞かれたとしても伏せておこう。窓の外に浮かぶ月にだけは、手紙を堂々と見せびらかした。



『ほぼ毎月、しろがねさんのお見舞いに来て下さり、ありがとうございます。我々看護師やヘルパー一同、非常に助かっております。突然ではありますが、今月より食べ物や飲み物等の見舞い品は御遠慮頂けないでしょうか。あなたからの見舞い品となれば、彼女はきっと、意地でも食べたがるでしょうから。』



 これは一体......と考え込んでみて、ふと下を見てこくりと頷いた。



『追記、早いうちに、どうしてもあなたに伝えておかなくてはと、個人的に手紙を出させて頂きました。

  敬具

 2012年7月5日

  若葉病院緩和ケア病棟 春崎 領子はるさき れいこ

 黔賎 くろい はるき様』



 ああ......あの子の世話をいつもしてくれている看護師か、と名前を見て思った。堅苦しい雰囲気を常に出している看護師だったので、このいかにもしっかりした人が書いた〜って感じの手紙が届いたのにも合点がいく。



「......今月はまだ行ってない、来週辺りに行こうと思っていたんですが......」



 4月に行かなかったのがよほど堪えたのだろう。1ヶ月に1回の面会がそれほどのものだったとは、僕も思っていなかった。


 いや、早く来るようにという催促の手紙ではないのだが、この手紙を見ているとなんとなくそう言われている気がしてならない。



「......明日にでも、行きますか」



 すぐ近くでぐだぐだうだうだと何かを言い続けている義母に聞こえないように、そうぼそりと呟いて。


 近くにあった僕のスマホと財布をナップザックに入れて、早めに眠りについた。


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