俺たち
目が覚めたら頭にでっかいたんこぶが出来ていた。仲良く俺たち二人共。俺と羊頭はそろって黒のスーツに身を包み上司に頭を垂れている。
俺はえらそうな毛むくじゃらもとい羊頭を巻き添えに死んでやった、つもりだった。しかし羊頭と共に地面で仲良くミンチになった結果、なにかの間違いで俺たちは混ざり合ったまま別の命に生まれ変わってしまった。羊頭がスカウトと言っていた通り、俺をただでは死なすつもりはなかったようだ。こうなるかもしれないことも一応念頭にはあったがまさかそうはならないだろうとタカをくくっていたらしい。
俺が同僚の自殺の巻き添えになったのは完全に事故で偶然だったが、ブラック企業からこれでおさらばになるしまあそれもいっかな~っと思っていた。
それなのに、目が覚めたら羊頭の所属する組織の、おそらく羊頭よりも上司(彼はカラス頭だった)の前で羊頭は土下座させられており、なぜか俺も床で土下座をしていた。耳にゴワゴワの毛が触れるほど羊頭は俺の頭に接近していて、「うわ!」と飛び退いて、そこではたと気付く。
俺の頭のすぐ隣から羊頭が生えている。俺の体から俺の頭と羊頭が仲良く揃って生えていた。
「なんだこれ!気色悪っ!」
「気色悪いのはこっちのセリフです、耳元で叫ばないでいただきたい!」
「うわ~…肩こりそう、首が二つも乗っちゃって…」
オフィスにあった姿見鏡を借りて覗き込むと、肩幅はそのままなのに肩の上に頭が二つ乗っている。手をグッパーさせたり体中を確かめてみたが、体の主導権は俺にあるようだ。変な感覚だ。
「これどうなってるの?肩の上にミチミチに頭が並んでやがる」
カラス頭の方を向いて尋ねると、カラス頭が説明してくれた。なんでも首が二つ乗っているのは俺から見た印象で実際はそうではなく、俺の体の中に羊頭が吸収された形で混ざっているらしい。頭に響く羊頭の声もテレパシーで直接耳に聞こえているものでもないのだとか。
「君の体は君のものだよ、落手太郎くん。よかったね。」
───俺は落手太郎、しがない会社員だ。黒いスーツに身を包み、頭からマーコールの角が一本生えているがほとんど人間の時と変わらない。頭の中に騒々しい同居人がいるのと寝返りが打ちにくいのがネックだ。
俺はブラック企業から逃れたつもりがまさか死んだあとも人生が続き会社勤めが続くなんてな。かくして人生は続く。続くったら続く。
雨 ぶいさん @buichi
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