第4話 時間を止める風鈴

『シガ、風鈴だ。”時間を止める風鈴”の話をしてくれ。』『そうだな。あの風鈴。』『ちょっと待った、シガわるい。風鈴の前にその姿。セミの訳をは教えてくれ。それにシガには悪いが、そのセミの姿で真剣な話をされても、わるい、笑ってしまいそうで。頼む。で、近い、シガ、少し離れてくれるかな。セミが目の前で羽根をパタパタ空中遊泳していると、どうも気が散る。悪い。机の鉛筆に止まってくれ。』シガは、ブツブツ言いながらも『仕方ないな。』と言いながら鉛筆に止まった。『シガ、話を続けてくれ。』『あー、始めるよ。このセミの姿のことも一緒に話そう。僕の故郷は夏の異世界。そこでの風鈴は絶対的なアイテムだ。”時間を止めることのできる風鈴だ。”一つしかない宝だ。その風鈴は、5年前、正解には6年前にあの花火の扉より地上へ落ちてしまった。誰かが故意に落としたか、または、偶然なのかは、わからない。犯人捜しはしたくないが、”ただ返してほしい。”僕ら夏の異世界には、地上人も迷い込みやすい。』『シガ、地上人は、飛ぶことも瞬間移動の能力をもたないよ。』『もちろんそうだ。しかし、さっき、話したように、夏の異世界人がこの地上に紛れ込んでいる。本人たちは気づいていたり。いなかったり。バラバラだ。多分、あの時の藤田さんは、自身が夏の異星人だと気づいているタイプだ。』『で、地上人とシガの夏の異世界人が、タッグを組んで盗んだとでも?」『そうだ、その通りだ。』僕は少し顔をしかめた。『どうして、地上人が絡んでると決めつけるんだ。』『風鈴のおいていた場所に落ちていたんだ。絹の糸のリボンが。』『絹の糸?そんなのどこでも手に入るじゃないか。』『それが違うんだ。絹の糸は地上の蚕が造る糸だ。夏の異世界には存在しない。僕らが触ると色が茶色に変色してしまう。落ちていた絹の糸は、輝く生成りの黄金色だった。』『へえー、世界が違うとそこに存在する物質自体も変わるんだな。』「ヒカル、当たり前だ。ヒカル君は理科は得意か?』『まあーそこそこ。』『そう言うことだ。』『で、シガ、犯人の目星はついているのか?まだだ。しかし、あのリボンの絹はこの地方でとれる特殊な絹糸だ。』『僕には絹糸なんかどれも同じにしか、見えない。』「ヒカル、蚕は桑の葉を食べて繭を作り絹の糸になる。食べた葉の具合で糸の仕上がりも違う。そうだな、人間も同じだろう、食べたもので体の機能が変わってくる?違ったかな?そうだろう、ヒカル。』『シガ、そうだ。人間の体も食べたもので変わる。あたりだ。』シガは、セミの姿で首を横に振り「いかん、いかん。また話がそれた。その風鈴は間違いなく地上人が故意に地上に持ち去った。過去にも何度かあったんだ。”どしても時間を止めたい。”このまま永遠が続くように”と身勝手な理由で。その都度、防衛隊所属の僕らが司令官命令でこの地上へ風鈴を探しに来ている。』『へえー、案外組織化されてるんだね。』『それで5年前のあの日、僕はこの街に来たんだ。花火の扉からね。それで君たち地上人の仲間を見つけた。ヒカル”約束”覚えている?』『悪い、さっきも言ったんだが、今日まで忘れていた。ごめん、シガ。』『僕ら夏の異世界人は、地上人との約束が成立するとセミに変わる。そして地上の土の中に5年間潜る。僕らは、その間、土の中から地上の様子を観察している。セミのため動くことはできない。ただ気配を細かく見ている。見ているだけだ。そして、僕らの代わりに約束をした地上人が約束を忘れたり期限までに約束を実行できない場合は、1週間後にセミの僕は死ぬ。』『えー、シガ、ごめん。僕そんなに大事なことを忘れていたなんて。本当にすまない。』『ヒカル、大丈夫さ。君は今、思い出してくれた。時間は、まだある。それに風鈴は彼女。藤田さんが持っている。』『藤田さんが?でもシガ、僕、彼女の居場所知らないよ。』『大丈夫だ。僕らには仲間が4人いるだろう。探せる。大丈夫だ。』パタパタとシガは止まっていた鉛筆から離れてスーッと人間の少年に姿が変わった。『シガ。』「ヒカル、大丈夫だ。5年経った。こうやって人間の姿にも変われる。この姿だと、たかちゃん、中島、坂田君にも怪しまれずに会えるよね。」『まあ、そうだけど。』「ヒカル、人間の姿の時は、口で会話していいよ。こっちの方が自然だろう。」「そうだな。じゃあ、みんなと合流しようか。」僕はみんなにメールした。”シガが戻ってきたよ。”






             

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