第14話
晴彦が再びいじめが始まった事を知り、恐怖で身体を震わせていた時、嵐は晴彦の救世主だった
「嵐が接近しているため、警報が発令されました。したがって、本日は1時間目の終了後に休校とします。」
先生の言葉にクラスメイト達は喜びの声を上げた。声こそ出していなかったが、その中で一番喜んでいたのは晴彦だ。
<よし!とりあえず、今日は逃げられる。>
何も解決していなかった、ただこの場所から逃げるだけの話だったが、その時の晴彦には逃げる以外の手段はなかった。
ずぶ濡れになりながら帰宅した晴彦は、濡れた髪も乾かさず自室でパソコンの前に座り一心不乱に調べ物をしていた。調べ物の内容は自分が嘘をつけない様にした例の鏡である。
晴彦は中学時代の経験からいじめを終わらせる方法を知っていた。それは、美玲と距離をとって優一の嫉妬を鎮める事だった。そのためには、何とかして嘘がつける状態に戻り、美玲に冷たく接さなければならない。晴彦はいじめを回避するために必死だった。
部屋が薄暗くなるにつれ、晴彦の指はキーボードを急ピッチで叩き続けた。ついに、彼の画面にはとあるサイトが表示された。それはオカルトマニアによる、オカルト関連のアイテムが出品されたオークション履歴をまとめたサイトだった。その履歴の中には、晴彦の疑問を解き明かすかのようなページがあった:『怪談「嘘なき鏡」に登場する真実の鏡を封印した仁明和尚のお札』。晴彦はゆっくりと、そのタイトルのページを開いた。
オークションの履歴に記載されている商品説明によれば、仁明和尚は江戸時代の高名な僧で、彼が書いたお札は非常に貴重なものだという。また、そのお札は真実の鏡を封印するために鏡が入った箱に貼られていると言い伝わっているそうだ。
そして、商品説明には次のような注意書きが書かれていた。
・箱の中身は大変に危険な呪いの鏡なので絶対に開けない様にしてください。
・箱を開けようとするとお札は破れると思われるのでご注意ください。
・箱の中身は怪談「嘘なき鏡」の物語より真実の鏡と言い伝えられていますが、開封して確認した物ではございません。よって箱の中身については保証できません。仁明和尚のお札の値段として入札をお願いします。
・この手のお札は、時間の経過と共に効力が弱くなると言われています。取引後に呪われたとしても当方に責任は持てませんのでご了承ください。
読み終わった説明に、晴彦は茫然として動けなくなった。部屋は暗く、パソコンの光だけが晴彦の顔を青ざめた色に照らしていた。理解が追いついたとき、彼の心は混乱と罪悪感で満ちていた。お祖父のコレクションの真の目的は、鏡ではなく、箱に貼られた仁明和尚のお札だった。その真実に心が揺さぶられ、高価なお札を破った罪悪感、そして軽率に真実の鏡を取り出したことへの後悔が一瞬で押し寄せてきた。加えて、自身が呪われてしまったかもしれないという恐怖が混ざり合った。震える手でマウスを操作しながら、彼は深淵へと情報を追い求めた。
オークションの落札価格は驚きの300万円だった。そして、多くの人々が熱狂的に入札を行っていた。この一連の事実が晴彦に一つの真実を告げた――その鏡は、間違いなく本物であると。
「何でこんなものを買ったんだ!」
晴彦は大好きな祖父に向けて初めて怒りをぶつけた。オークションの時期を考えても、落札者は祖父ということになる。祖父のコレクションは祖父のおこずかいで買える範囲のものばかりで、300万もするような高額な品は他にはなく、祖父がなぜそれを落札したのか疑問だった。
晴彦は怪談「嘘なき鏡」について調べてみたが、これが江戸時代の非常にマイナーな怪談であることがわかった。怪談を読むと、一行一行が晴彦の見た夢と確かに一致していることに息を飲んだ。それは彼の夢が、古代の怪談と現代を繋げるかのような不思議な感覚を引き起こした。。
怪談「嘘なき鏡」は、侍に騙された町娘が川に飛び込んだという話だった。町娘は浅草の団子屋の看板娘で、飛び込んだのは両国橋の上からだった。その詳細な情報から、この話が江戸時代に実際にあった出来事だと知った。
そして、怪談には彼が夢で見た内容の続きが書かれていた。町娘と一緒に川に沈んだはずの鏡は、女を嘘で悲しませる男の元にどこからともなく現れ、嘘をつけなくなる呪いにかけると書かれていた。そして、嘘の理由が酷ければ酷いほどに男の生気を奪い最悪の場合は命を奪われるとあった。
いつの時代も女性に適当な嘘をついて不倫や浮気で女性を悲しませる男は多くいて、この時も鏡による犠牲者が多く出た。その為に高名な僧である仁明和尚が鏡を封印する事になったそうである。
晴彦は自分も命を奪われるのかと心配になった。しかし、今のところ、自分の身体には異常を感じていない。嘘をついた理由が過去のいじめで、自分自身も被害者であるという事実を考えると、それが何らかの形で影響しているのかもしれないと、晴彦は思った。
怪談の最後には呪いが解けた例が書かれていた。それは嘘をつくのを止め、悲しませた女性を幸せにするというものだった。今の状態に置き換えると呪いを解くためには、美玲に嘘をついて冷たく接するのではなく、嘘をつかずに彼女を幸せにすることが必要であると言うことである。それを理解した瞬間、晴彦の心は一瞬凍りついた。美玲に優しくすることで呪いを解こうとすると、それが優一の嫉妬を引き起こし、いじめに繋がるという事実に直面する。まさに堂々巡りな状況に置かれている事を理解した晴彦は、いじめを避ける策が何もないことを悟り、絶望した。
「どうすればいいんだ・・・誰か助けてくれ・・・」
その頃、外は大雨だけでなく雷まで鳴り響き台風の様な嵐になっていた。晴彦の悲鳴は風の音にかき消され誰にも届く事はなかった。
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