第6話

優一は美玲に対して何度も海外旅行へ誘い続けたが、美玲からの答えは一貫しての断りだった。それは彼にとって大きなショックだった。何故なら、その旅行の計画は美玲の過去の会話を分析して、彼女が以前から行きたがっていたアメリカへの旅行だったからだ。当然費用は優一が負担して、日程も美玲の予定がないと把握している日を選んでいた。優一は美玲を誘うために、それだけ細部にまで徹底的にこだわって計画を立てていたのだ。優一は、美玲がその素晴らしい計画に感動して涙ながらに喜ぶ姿を想像していたのだ。


しかし、美玲は迷うことなくその誘いを断った。これは今に始まった事ではなく、中学時代から優一は美玲に対するあらゆる誘いを断られてきた。その度に優一は美玲がなぜこの素晴らしい誘いを断るか理解する事が出来ず、もっと美玲がびっくりするくらい豪華で贅沢な計画で誘う様にしようと考え、ついには海外旅行の誘いにまでエスカレートしていたのだった。


優一は一人寂しげにスマホをいじる晴彦の姿を見下す様な視線で見た。中学時代から美玲の心の中には、晴彦がいるのは知っていた。だから徹底して晴彦をいじめて絶対に立ち直れない様に潰したのだ。


「美玲さんに晴彦なんて釣り合わない。彼女にふさわしいのは、僕だけだ。美玲さんは必ず僕のものになる。美玲さんがいくら頑張っても晴彦が立ち直る事はないだろう。いつか美玲さんも諦めるはずだ。だから、僕は焦ることなく、ゆっくりと美玲さんにアプローチすればいいのだ。」


優一は人知れず静かに自分の気持ちを落ち着かせた。


優一は美玲に誘いを断られた後も爽やかな笑顔で楽しそうに会話を続けた。しかし、その爽やかな笑顔の裏で、彼の心はヘドロの様に汚くドロドロに濁っていたのだった。

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