第5話
晴彦は、クラスの誰からも好かれている人気者の優一が好きではなかった。そして、優一の存在には恐怖すら感じていた。その理由は、彼が中学時代に体験したいじめの主犯が、優一だと考えていたからだ。
優一が主犯だという証拠はなかった。でも、晴彦は確信していた。いじめが始まる前に晴彦と美玲が仲良く話をしているときに、二人を見つめる優一の目は、親の仇を見るような恨みがこもっていた。他の男子生徒達も晴彦と美玲の関係に嫉妬していたが、あんなに憎しみが視線に込められているのは、優一だけだったのだ。
「もし美玲が優一の本当の姿を知ったら、あんなに笑顔で優一と話せるだろうか?」
晴彦はふと考えた。
中学時代のいじめによって日々消耗していく晴彦を見て、美玲は心から心配してくれていた。しかし、晴彦は美玲に真実を打ち明けることができなかった。美玲が自分と同じようにいじめの対象になることを、何よりも恐れていたからだ。
「美玲の笑顔と幸せを守りたい。」
晴彦は自分の幸せを諦めていた。ただ、美玲だけは幸せになって欲しかった。
それから晴彦は美玲に冷たい態度をとり本音を隠して冷たい嘘で美玲を傷つける様になっていった。晴彦と美玲が仲良くすると危険なのだ。しかし、晴彦の考えと異なり美玲はそんな晴彦の態度にめげる事なく常に寄り添い続け、同じ高校に進学する事も止めることが出来なかった。
教室の中では、まだ優一の自慢話が続いていた。彼は何度もしつこく美玲を海外旅行に誘っていた。その度に晴彦の心は揺さぶられ、その表情は悲しみと苦悩でゆがんでいた。
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