第4話

梅雨の中休みであるどんよりとした曇り空が広がり、暑苦しい湿度が室内に閉じ込められていた。その蒸し暑さに晴彦の気持ちは一層憂うつになった。しかし、教室の中は晴彦の気持ちとは対照的に、楽しげな笑い声で満ちていた。その声の中心は貴族 優一である。


優一は伝統ある貴族家系の一人息子で、その出自だけでなく、自信に満ちた性格とカッコ良い顔とモデルの様なルックスでクラスの中心人物だった。男子は優一、女子は美玲とこの2人が圧倒的な美男と美女で2人が並んだ時のオーラが凄くお似合いのカップルだよと同級生達は持て囃している。そんな優一は、夏休みの間に計画している海外旅行の壮大な計画を、自慢げに語っていた。


美玲もその話を聞いていた。誰にも優しい美玲は晴彦が鼻につく優一の自慢話に対しても決して不快そうな顔を見せず、丁寧に優一の話に相槌を打ち、笑顔で話を聞いていた。そんな美玲の態度に優一は益々テンションを上げて会話の声が大きくなる。そんな優一を見ると彼が美玲に特別な感情を抱いていることは明らかだった。


声の大きな優一の話は晴彦の耳に嫌でも届いた。その会話が耳に入る度、晴彦の心は重くなる一方であった。そして突然、優一の声が一際大きくなり、優一の声が教室中に響いた。


「美玲さん、夏休み、僕と一緒に海外旅行に行かないか?」


それを聞いた晴彦の心は張り裂けそうになった。その晴彦の感情は梅雨の湿度や優一がうるさいと言うものではなく、何か他の感情が混じっていた。


「まさか、俺は嫉妬しているのか?」


晴彦は思わず呟いた。嫉妬と言う考えが晴彦の頭を過ったが、すぐにその考えを振り払った。


「いや、もう美玲のことは関係ないんだ!」


晴彦は自分に言い聞かせた。しかし、心の底では様々な苦しみが湧き上がってきていることを、晴彦は知っていた。

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