第3話

春の柔らかな日差しと心地よい風が教室を包む午後、生徒達は退屈な授業と睡魔との戦いであった。そんな日常の一コマ、晴彦は睡魔に負けて夢の世界に足を踏み入れてしまった。


晴彦の夢の中は、幸せそうな子供らしい笑い声で溢れていた。その笑い声は夢の中の晴彦と美玲から発せられていた。2人は小学校の低学年時代に戻っており、美玲の家でままごと遊びを楽しんでいた。ままごと遊びで、二人は新婚の夫婦を演じていて、幸せいっぱいな新婚生活を過ごしていた。


美玲は晴彦のために一生懸命にキッチンのコーナーで「料理」を作っていた。彼女の頬には満足そうな笑みが浮かんでいて、まさに幸せそのものを体現していた。


「ねえ、私たちが結婚したらこんなに毎日が幸せになるんだよね」


美玲はキラキラと輝く瞳で晴彦に向かって言った。その一言で、晴彦の心は高鳴り、自分が美玲に恋心を抱いていることに初めて気付いた。


「そうだね」


晴彦は心の中で自分の感情を確認し、美玲に満面の笑顔を向けた。その瞬間、彼の心は純粋な幸せで溢れていた。


・・・。


「晴彦!、晴彦!」


しかし、その幸せな夢からという囁くような声が彼を引き戻した。


「あれ、まだ授業中?」


彼はぼんやりと周りを見渡し、目の前にいる美玲が自分をこっそり起こしてくれていたことに気づいた。


「余計なことをしなくていいのに」


晴彦は目をこすりながら彼女に冷たく言い放った。晴彦は夢の中と現実のあまりのギャップに心が折れそうになったがグッと歯を食いしばった。その一方で、授業に戻ろうと教科書に目を落とした晴彦の目からは、一筋の涙がこぼれ落ちた。こんな事で泣いていてはいけないのだとその後の涙を堪える晴彦を美玲は心配そうに見つめるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る