お金持ち家族の豊かな団欒と貧乏マインドの居候
マックガフォッグさん家でお世話になって2年目になりました。
俺たちの団欒は、
このマックガフォッグさんの奥様の19歳の妹と10歳の姪を加えて、人も増え、愉快さも増していた。
お金持ちの一家には全体に互いに良い感情が流れあっていた。
ただし、老いた独身のデイヴィッド・スローンを除いて。
デイヴィッドは自分に対しても、
他人に対しても、
足るを知るということが中々できない人間だった。
「足るを知る者は富む」という言葉もあるが、
このマックガフォッグさんのみんなが俺に示す親切や、
また買い付けのお客が自分より俺を選ぶことを、
大変妬ましく思っていたらしい。
お金があるのに暮らし方がケチ臭く、
自己中心的で
友だちもちょっとできにくい男だった。
たまたま馬鹿らしい一つの例を紹介しよう。
彼自らの避けがたいこれらの欠点を映し出した。
彼は卸売部に隣の部屋で寝ていた。
折々の際には販売部の部屋がいっぱいになり、
商品が溢れ出すと入りきれなくなった商品の
いくらかが時々デイヴィッドの部屋に押し込まれた。
この今起こったこの事件のときは、
たまたま立派な高価な商品が、
彼の部屋のテーブルの上にいくつか載せてあった。
彼は自分の部屋の着物だけには酷く気をつける方だった。
実家ぐらしなわりには、
長く仕立ておろしらしく見せておくのが楽しみであった。
ところがその時、ちょうど、
細ズボンの新しいのを一着買ったばかりであった。
今のようなズボンは当時まだはじまっていなかったから、
彼は寝るために
マックガフォッグ商会の商品のおいてあるテーブルの上にズボンも載せていた。
寝床へ入ろうとして明かりを消した。
その消した蝋燭の火の花か芯かが、
彼には気づかないうちにそれらの商品の中、
それも彼の買ってきたばかりの商品の端に、
彼は寝込んでしまい、
卓上のいくつかの商品が燃えた。
デイヴィッドの商品も燃えた。
いくつかのボタンとちょっとの残りを残しただけで、
あまりきな臭いのにマックがフォック夫妻はじきに目を覚ますと、
すぐに騒ぎ出したので、
皆パジャマのまま飛び起きた。
煙がデイヴィッドの部屋から湧き出しているものが見つけられた。
扉をどっとドンドンドンドンと、
叩き上げた音に、
寝ていたデイヴィッドもただちに目を覚ました。
卓上に燃えているものがその騒ぎのもとだとわかって、
矢庭に水がかけられ
火はすぐ消えた。
ほっとして一同はじめて顔を見合わせた。
けれども、
デイヴィッドのパジャマ姿は大変なものだった。
彼はテーブルの傍にめちゃくちゃな格好で立っていた。
その上、デイヴィッドは自分の燃えた商品だけをただ悲しそうに
手に取って着物の切れ切れを眺めていた。
デイヴィッドは自分が起こした危険を自覚したり、
マックがフォックさんの商品を駄目にした損害なども、
全く無頓着だった。
彼は買ってきた衣服の切れ切れを眺めてはオロオロ泣いていた。
「うわぁ。俺の新しいズボン。。。俺のズボン。。。」と
しばらく彼は、こればかり連呼していた。
火事の原因をどんなに聞かれても、
とうとうそのありさまは、
誰でも吹き出さずにはおれぬほどの
茶番めいた滑稽なものだった。
彼は皆は立ち去り、彼一人残された。
一番惨めな様子で朝まで自分の思いにふけるように、
しかし、かわいそうに。
「うわーん。俺のズボン。。。」
を後々の人までこれを決して人々は忘れなかった。
それはとうとう、
彼をいじめようと思うものだけが、
彼の記憶を呼び覚ましたがる冗談になった。
長年の後二人共歳をとってからマンチェスターで彼に出会った時、
興奮しきって私の手をたく握りしめながら
異常な真面目さを持ってデイヴィッドは言った。
「以前いろいろおかけした損害は許してくださるか?」
私は「いや、別に私はあなたから何も損害を受けていないが、だから許すも許さないもないじゃありませんか?」
「大有りだ。」
けれど、まぁ、それで何か気が済むなら、私はあなたを心から許しますよ。
あなたが私にかけたと思っていられる損害そのものはちっとも知りたくも思いませんが。
この気の毒な男は心の重荷から救われたと見え、
もう一度、私の手を固く握り、満足した面持ちで別れた。
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