商売人ムーアと僕とロンドン

うちの家のすぐ隣には、

ティルスリ姉妹がいたんだ。


しかも二人ともに未婚だった。


一方は、ファッション関係、

もう一方は食べ物を売る、

田舎の小さな店をやっていた。


ある日、片方がムーアと結婚して、

家を構えた。



ムーアさんは、商売を手広く広げ、

前の小売のほかに卸売もすることになった。


今風に言えば、BtoCだけじゃなくて、BtoBの仕事もはじめた。


余計にムーアさんには人手が要るようになった。



僕の手も借りたいと、

まず、僕を市場が開いている日に働かせた。


僕はそれまで二年間助教師の職についていたけど、

ただ教えることしか習っていなかったので、

ムーアさんは、僕の父に願い出て、

僕はムーアさんの忙しい日だけではなくて、

毎日働くことになった。


ムーアさんとニュータウンで1年働いた。


まだ、実家にはいたのです。



この頃までに、

僕は異国の様々な諸事や、

他の色々なことを情報収集していた。


読書習慣は続けていて、

さらには考える習慣や、

規則正しい生活を保った。



僕は小さな田舎の習慣が嫌いだった。

僕はどんどん周りとは違う活動の舞台を求め、

ついに両親にロンドンに行かせてくれと頼んだ。


この歳は9歳半のこと。


そして私は地元の人気者であったが、

とうとう十歳になれば、

ロンドンに行ってもよいと

許しがでたのだ。


この約束は私の胸を高鳴らせ、

やっている仕事にも張り合いが出てきた。


読書もダンスの稽古も続けながら。




僕がこのムーアさんの仕事を続けながら、

ある滑稽な事件が起こった。

今でもまだ覚えている出来事がある。


僕と同じ年齢の学校の友だちの親が、

この街に食品店をひらいていた。


その店の糖蜜はとてもとてもとても人気があった。

沢山の人が買い求めてきた。


糖蜜の備蓄がなくなったので、

ムーアさんに求めてきた。


名前はジョン・スタンリ君という

僕の学校の友だち。

彼が2本の真っ直ぐな棒がついた

担げるようになっている桶を1つ持ってきた。


その桶にひたひたに入る量を求めてきた。


その糖蜜は、

店の床下の穴蔵に入っていて、

この穴蔵に入るには、

店の床の中央の1つ揚板をあげて、

ハシゴの階段を降りなくちゃいけない。



ジョン君は、その桶にたぷんたぷんに入れて、

頭に桶を載せて、

ハシゴを登っていった。


そして、ようやく床のラインまで到達したかと思うと、

桶はひっくり返り、ジョン君は糖蜜を頭っから被った。



極めて濃いドロドロとした液体で、

髪の毛だけではなく、衣服やからだ全身を覆った。


ジョン君はちょっと想像もつかないほどの、

なんとまぁ、おかしな、また、惨めな格好だった。


ジョン君は家までどうやって帰ったんだろう。


ジョン君のことは僕がニュータウンを出るまで、

また、この文章を読んでいる読者にさえ、

ずっと覚えられていた。





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