第17話 徹底的に痛めつけてやる<7>

「俺の舎弟がお前の姉ちゃんから金を貰って来てくれるぜ。俺としちゃあ別にいいんだけどよ……お前の姉ちゃんの体でも、なんてな! あっはっはっはは!!」


「くぅ、姉ちゃん……! 俺がドジ踏んだばっかりに……」


「全く麗しい姉弟愛だぜ! こんな馬鹿な弟の為に自分から言いなりなってくれるなんてよ! 涙が出てくるってもんだ!」


「うう、ちくしょう……!!」


「おーおー悔しいよなぁ。でもよぉ、お前が悪いんだよなァ? 高々万引きしたくらいで俺の可愛い子分をサツに突き出しやがって。おかげでこっちは大迷惑だぜ」



「ああ、全く俺も大迷惑だぜ。夕飯前にゴミ掃除をしなきゃならなくなったんだからよォ」



「ッ!? だ、誰だ!!?」


 恐らく不良グループのボスだと思われる男の足元でうずくまってるのは、朱里ちゃんの弟くんだ。彼は傷だらけで涙まで流していた。久しぶりに会ったけど、あんな目に遭わされるなんて。


(好きにやらせて貰うぜ。文句はねぇよなァ?)


『うん、彼の為にも朱里ちゃんの為にも、このまま許しちゃいけないと思う。そのくらいは分かるよ』


 数年会って無かったからって、放っては置けないよ。必ず、助け出さないと。


「俺が誰かだって? そうだな清掃員ってところか。町にこびりついた汚物を片付けに来たんだから何も間違ってないだろ?」


「テメェ、クソチビ!! 俺をゴミだとでも言いてぇのか?!!」


「ほお、身の程をよく分かってるじゃねえか。ただの粗大ゴミかと思えば、存外チンパンジー並みの知能はあるらしい。褒めてやるぜ、お利口さん」


「この野郎、ブチ殺してやる! 出れ来い野郎ドモォ!!!」


 ボスが仲間を呼ぶために大声で叫んだ。

 だけれどもその仲間が来ることはない、絶対に。


「なんだ、どうして誰も出て来やがらねぇんだ!!?」


「テメェのかわいい子分たちは全員俺が始末してやったぜ。ちりとりで集めた埃みてぇに、近場のゴミステーションにぶち込んでやった。これでまた町の景観が美しくなったぜ。ぎゃあっはっはっは!」


「テんメェェえええ!!!!」


 完全に頭に血が上ったボスは、赤錆のついた長いチェーンを取り出すと、僕に向かって鞭のように振り下ろしてきた。


「お、なんだこいつは? チンパンジーのサーカス芸かァ?」


 何の気無しに、ここに来るまでに子分の人から奪った木刀でチェーンを絡み取る。

 その上でさらに煽ったのだから、ボスは今にも頭の血管がはちきれそうになっている。


「このッ! 絶対に許さねぇぞクソガキィ!!」


「許さねぇならどうだってんだ? なぁ、どうするってんだよ?!!」


 木刀を絡みとったチェーン事思いっきり地面に叩きつける。するとチェーンを持っていたボスは態勢を大きく崩してしまい、今にも地面に転びそうだ。

 なんとか足を踏ん張り、体勢を立て直そうとするが。そこに大きな隙ができた。


「こ、この!」


 一気に走り出し距離を詰める。


「さっき許さねぇって言ったな。奇遇だな、俺もテメェをこれで許すつもりはねぇ」


 その勢いのまま、相手の顎下めがけて……渾身の力で拳を突き上げた。


「ぶげらっ!?」


「歯ァ食い縛れよ!」


 しかしそれだけでは終わらない、すぐさま片方の手で相手を引き戻し、もう片方の手は握り拳のままその眉間を殴りつけた。


「ごがッア!!?」


 殴り飛ばされ、そして二度も頭を揺さぶられたボスは起き上がることができない。

 そんなボスに向かって、彼はゆっくりと近づいていく。


「教えてやるぜ、テメェみてぇのがどうなるかってのをな。……二度とヤンキーが出来ねぇように、俺の影にビクビクと怯えるように――徹底的に痛めつけてやる」


 彼の視点から見る僕にも伝わってくる、ボスの恐怖に染まっていく顔。

 そしてそれを見下ろす彼の冷たい瞳を。


 それから数分間、廃工場の中を鈍い音が鳴り響き続けた。




 僅かに息遣いが聞こえる程度にまで弱ったボス。全身はいたぶられ続けて怪我や痣の無い所がまるで見られなくなってる。


「なんだかんだ俺も優しいもんだ。本当なら八分殺しのところを半殺しで済ませたんだからな」


 やれやれと言わんばかりの彼の態度から、本当にそう思っているみたいだ。

 流石にちょっとやり過ぎのような気もするけど……。


『それより、弟くんを解放しないと。いつまでも縛られたままじゃ可哀想だよ』


(そう思うならお前がやれ。そろそろ回復した頃だろ?)


 その言葉が終わると同時に、僕の意識も入れ替わっていた。

 本当に交代出来た。一度気を失うと入れ替わるのに時間が掛かっていたのに。

 もしかして、僕が勝手にそう思っていただけであまり時間は掛からないのかな?


(おい、助けに行かなくていいのか?)


「あ、そうだった! おーい、大丈夫かい?」


 拘束されている朱里ちゃんの弟くんの手足に巻き付いたガムテープを、ナイフで切っていく。これもここに来る途中で不良の人が持っていたのを手に入れたんだ。


「はい、これでもう大丈夫だと思うよ」


「すんません助かりました。何処の誰かは知りませんが……あれ? もしかして、耀真さんですか?」


「うん、久しぶりだね蓮人くん。お姉さんが心配してたよ、さあ帰ろうか」


 こうして彼と話すのも数年ぶりだ。あの頃は背も小さかったのに、今じゃ僕より大きいようだ。なんて言い方をすると親戚のおじさんみたいだなぁ。


「二人には迷惑かけてしまって……全く情けねぇ話ですよ。あんな連中に言いようにされちまって」


「まあまあ、こうして無事だった事を喜ぼうよ。……さあついて来て、お姉さんは僕の家で待たせてるから。早く帰って安心させないと」


「姉ちゃんが耀真さんの家に? そうっすか、久しぶりだなぁ」


 昔を思い出したのか、彼も随分と落ち着きを取り戻せたようだ。


 よし! みんなで帰ろうか。


(僕達の事も説明しないといけないしね)


『聞いて理解出来るか知らないがな。頭は固い方だろ? あの女』


(ちゃんと説明すればきっと大丈夫……と思う)


『おいおい』


 と、とにかく! 先ずは朱里ちゃんを安心させたいな。


 蓮人くんを連れて、僕は不良グループのアジトを出た。

 もう夜か……月が出てるや。こんな空の下を歩くのも乙って奴かな? な~んて。





[あとがき]

ここまでお読み頂きありがとうございました。

大変申し訳ございませんが、当作品は諸事情によりここで終了とさせて頂きます。

ですが、別の作品でもお会い出来ればと考えております。


それでは。

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理不尽な暴力に見舞われた弱虫な陰キャ高校生の僕が死を覚悟した時、悪者共への無双が始まるのには訳がある~喧嘩も強くてハイスペックな俺の覚醒無双伝~ こまの ととと @nanashio

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