第16話 徹底的に痛めつけてやる<6>

「あんたなんてことを……! そいつの仲間がただじゃおかないわよ!?」


「あ? その時はゴミが山になるだけだ。……ほらよ」


 彼は不良の人のそばに落ちていた封筒を拾うと彼女に向かって投げ渡した。


「あっ、ありがと……。ってそうじゃない! あんたが今倒したのは不良グループの下っ端、あいつらは自分たちに楯突くような人間は絶対に許さないのよ!!」


「そんなことでガタガタ言うんじゃねぇ。それよりお前、何であんな男に金なんざ渡してたんだ? 趣味か?」


「なわけないでしょ!!?」


「へ、冗談だよ。……大方脅されていたんだろうが、そんなもんに黙って従うような女じゃないよなァ朱里」


「…………あんた、やっぱり耀真じゃないわね。一体誰なの?」


 さすがに気づかれちゃったかな。彼女――司馬朱里は僕の幼なじみ。

 中学に上がったくらいでなんとなく疎遠になってしまったから、こうして面と向かって話すのも数年ぶりだ。厳密には、今話してるのは僕じゃないんだけれど。


「さてどうだかな? そんな話はどうでもいいだろ。……誰だ? 身内か? それともダチか?」


 何の話だろ? ………………あ、そうか!

 彼女は自分の事なら相手が誰でも絶対にやり返す女性だ。とにかく気が強くて、男子もちょっかいを出さない事で有名だった。


 その彼女が言いなりになってお金を渡してたって事は……。


「……弟が、因縁をつけられて」


「それでか。話が大体見えて来たぜ、まあ俺には関係ねぇけどよ」


「……あんた結局何者なの? それにさっき私の名前……」


「さてね。お前が気にすることじゃねえよ」


 そう言って彼は倒れていた不良の人の懐を弄ってスマホを取り出した。


「あんた何してんの?」


「コイツの親玉について調べないとな。……ああこれだ。そうか、町はずれの廃工場を根城にしてんのか。いかにもなヤンキーのたまり場だな。さてと」


 不良グループが潜伏している場所を突き止めてしまった。こうなるともう止まらないんだろうな。短い付き合いだけどそれぐらいは分かるようになった。

 まだ筋肉痛が治って無いんだけど。……仕方ないか。


『でも買い物袋をそのままには出来ないよ。せめて家に置いてからじゃないと』


(あん? それもそうだなァ……)


 彼女を助ける為に咄嗟に地面に放り投げたマイバッグ。

 それを拾った彼は……、あれ? どうしてあの子の所に?


「おい」


「何よ? 大体あんた、まだ私の質問に答えて無いんだけど」


「後にしろ。……これ家まで届けておけ。ほら鍵も付けてやる」


 そう言ってマイバッグと家の鍵を強引に押し付けた。


「場所はよくご存じだろ? 親は居ねぇから遠慮する事ァねぇぜ」


「家の事まで……。あいつに双子の兄弟が居たなんて聞いたこと無い。それにこれから何処へ行くって?」


「じゃ、あばよ。……荷物を届けてくれたら御礼に望みのもん持ち帰って来てやるよ」


「あんたまさか……!? 危険よ! ちょっと聞いてるの? ねぇ?!」


 振り返る事も無く、彼女の声を背に足を進める。

 行く先は分かった、そして何が彼女にあんな事をさせたのかも。

 僕も怒ったぞ。

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