第15話 徹底的に痛めつけてやる<5>
自分でも思った以上に声が出た。少し前の自分ならこんな時にこんな大声は出せなかったんじゃないだろうか? でもそんなことは今はどうでもいい。彼女に背中を見せながらその体格の大きい不良の人の前に立った。
「あ、あんたなんでここに!?」
「あん? なんだこのチビ。お前の知り合いかよ?」
「っ!? ……し、知らないわよこんな奴! あんたもどこの誰かだか知らないけれど、さっさとどっか行きなさい!!」
(そんなぁ。そりゃあ何年も顔を合わせなかったけども、そんな言い方しなくたって)
『いやいや、ありゃあお前を巻き込みたくなくて嘘ついてるだけだろ。あんなに動揺してる姿初めて見たぜ』
そうだったのか。でもそれはともかくここから動くわけにはいかない、たとえ分殴られても彼女を逃してあげないと。
「と、とりあえずここは穏便に」
「出来る訳がねえだろうが! ちょうどいい、サンドバックが欲しかったところだぜ!!」
そう言って拳を振り上げる。
「ひぃ!」
思わず情けない悲鳴を上げてしまう。
『ひぃじゃねえだろ。いつになったら慣れるんだお前』
でも怖いものはしょうがない。
『ったく、仕方ねぇな。左右どっちかに避けろ』
「え? う、うん」
指示通りに右に避けると、不良の振り下ろしてきた腕が空を切る。
「っち! 避けてんじゃねえぞ!!」
『ほらまた来たぞテレフォンパンチが。あんな程度避けて見せろよ』
それからも頭に流れる指示にしたがってその不良の人の攻撃を次々と避けていった。
確かに冷静になってみると彼のパンチは全然鋭くない、振りは大きいし。
そのうち疲れて諦めてくれないかな?
なんて思っていたんだけれど……。
「もう! もうやめなさい!! そいつは何も関係無いって言ってるでしょ!?」
彼女が不良の人に突っかかって喧嘩をやめさせようとした。
だけどまずい! 今彼はものすごくイライラしているはずだ。
「うるせえんだよクソアマがぁ!!」
横槍を入れられたことでさらに頭に血が昇ってしまった不良の人は、彼女に向かって拳を向けた。
「すっこんでろやぁ!!」
「うぅっ!」
「っ!? あ、あんた何で?」
心配する彼女をよそに、僕は不良の人に殴られていた。彼女が殴られると思って咄嗟に体が動いたからだ。
ダメだ側頭部にもろに入った。気が、また遠くなって……。
『あ~あ、仕方ねえなったく。しょうがねえ代わりにやってやるよ』
ごめんね、あとよろしく。
「はっ、そんな女庇うからだぜ。バカな野郎だ」
「っ……。さすがにテメェみたいなへなちょこパンチでも、モロに食らうと少しは痛ぇみてぇだな」
「なんだと? 今なんつったチビ!!?」
僕の代わりに彼が表に出た。今ならはっきりとわかる、さすがに慣れたからかな。
「聞こえなかったか? 頭も悪けりゃ顔も悪いのに、おまけに耳まで悪いなんて良いところ一個もねぇな」
「あんた、何言って……?」
「テんメェ……!! もう容赦しねえから、ッがぁ!?」
「容赦しねぇだァ? そりゃあこういうことか?」
目の前の不良の人が喋ってる途中だっていうのに、彼はお構いなく顔面を殴りつけた。
「な、なにしやがんだこのや、ごぉ!!?」
「べちゃくちゃ喋ってんじゃねえよ、空気が汚れるだろうが!」
それからも続け様に不良の人の下腹にキックを食らわせ、うずくまったところを顔面を思いっきり掴んで地面に叩きつけてしまった。
案の定、白目を向いて気を失ってしまった。
「町内の美化作業に貢献している俺は地域愛が溢れてるな。全く自分でも良い奴だって思うぜ」
相変わらず、彼の中では不良=ゴミなんだな。
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