第14話 徹底的に痛めつけてやる<4>
こういう時、家からそう遠く離れていない場所に業務用のスーパーがあるのは嬉しい。夕方に家を出たのにまだ日は落ちてないし、目当ての食材もマイバッグいっぱいに買えた。
ま、一人暮らしだからそんなに量は無いんだけどね。
スーパーを出て家に帰る途中、街灯の明かりが灯り始める時間帯。
今日は土曜日ということもあって学生服姿の人をあまり見かけない。それはつまり、知り合いに会う可能性も少ないということ。いや、そもそも知り合いなんてあまりいないんだけどね。
「今日のご飯は一人鍋~、……ん?」
知り合いに見られる可能性が少ないから、調子に乗って歌なんて歌ってる時、見覚えのある顔を見かけた。
何か深刻そうな顔をして、路地裏に入って行く。彼女は……。
『何かトラブルの匂いがすると思わねぇか? 彼氏に別れを切り出されそうとか、彼氏にまた金をたかられたとか』
「そもそも何でそんなひどい彼氏がいる前提で話してるのかわからないけど……。仮にもしそうでも余計なお世話じゃ」
『そうは言ってもあいつは……。数年ぶりに会話をするチャンスかもしれんぜ』
「え? 彼女のこと知ってるの?」
『……お前それ本気で言ってんのか?』
また呆れられてしまった。
どういう意味かよく考えたら、僕と同じ経験をしているわけだから、知ってて当然だった。
「う~ん……。でもすっかり疎遠になっちゃったし、今更自分のあれこれに首を突っ込まれても迷惑じゃない?」
『ま、お前がどう思おうと好きにすりゃいいと思うがな。でも、俺の勘だと痛い目を見そうな気もするがな』
「彼女が? ……わかった、じゃあちょっとだけ後をつけてみようか」
『俺としてはどんなトラブルに首を突っ込んで痛い目に会おうとしてるのかに興味があるがな』
「悪趣味だなぁ。だいたいそうと決まったわけじゃないんだし」
でも指摘されたら気になるもので。
僕はこっそりと路地裏に入って行くのだった。
◇◇◇
少し進んだ先に聞こえてくる声。男性と女性の声だ。
でも楽しそうな雰囲気の声じゃない、むしろ言い争ってるような。
『こりゃあ俺の勘が当たったか。相手はどんなDV彼氏何だ?』
「偏見だよそれは」
少しずつ大きくなってくる声。物陰からその声の主たちの姿を確認できる程に近づけば、会話の内容も鮮明に聞こえてくる。
そしてそれは確かに穏やかなものじゃなかった。
「へへ、ちゃんと言われた通りのものは持ってきたか? 俺だってこんなことするのは心苦しくて仕方ないんだぜぇ? けっへっへ」
「……ッ!! これでいいんでしょ? さっさと受け取りなさいよ!」
おそらく不良であろう人に急かされて、手に持っていた封筒を地面へと叩きつける。すると中に入っていたお金が封筒の口から顔を見せた。全部で何枚あるかわからないけど、全部一万円札である事は見てとれた。
なんてことだ! これはいわゆるカツアゲって奴じゃないか!?
気丈に振る舞ってるけど、怯えているのがよくわかる。可哀想に。
不良は地面に叩きつけられた封筒を拾って中身を確認すると、いやらしい笑みを浮かべた。
「へっへっへ、確かに。いや悪いねぇ、わざわざ持ってきてくれちゃって。助かったぜ」
「ふん、あんたが呼び出したんでしょう! はやくどっか行きなさいよっ!」
「あぁ、そうさせて貰う」
そう言うと、彼は踵を返してその場を離れようとする。
だがしかし……。
「あ、そうそう思い出した。いや俺の先輩がな、パチンコで大損こいて機嫌が悪くなっちまってよ」
「……それが何だって言うのよ」
「まあ聞けよ。その人は一度頭に血が上ると手が付けられない人でな、最低でも擦った分の金を渡すか――女を工面してやらないと落ち着かないだろうなぁ?」
「あんたまさか!?」
「お、察しがいいな。そういうことよ」
「ふざけないで!!」
これはまずい! 事情は分からないけど、あの不良の人は彼女を明らかに脅している。
「別にふざけちゃいねえだろ? 俺はあくまでも可能性の話をしただけだぜ。それなのにお前の勝手な想像で勝手にキレられても困るって話しだ」
不良の人は煽るのをやめない。いくら僕でも彼の言ってることがとても下衆な事くらいは分かる。彼のあのにやついた顔は生理的な嫌悪感をひどく感じる。
そう思った時僕の体は勝手に動いてくれた。
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