第12話 徹底的に痛めつけてやる<2>
疲れは残ってるけど昨日より筋肉痛がマシになったおかげで、キッチンに立てるようになった。
朝はやっぱりパンだ。それが生まれてこの方この家で過ごしてきたルーティンだから、それ以外の選択肢は思いつかない。
「そういえばトレーニング的にパンってどうなのかな?」
『炭水化物が豊富だからエネルギーの補給にはいいだろ。全粒粉ならなおよしだ。食べた後は無酸素運動をやるわけだしちょうどいいんじゃねぇか? トレーニングの後にもいいよな、タンパク質の豊富な食材を挟んだサンドイッチとか』
「へぇ、君詳しいんだ」
『あのな、俺とお前は同じ脳みそを使ってるんだぜ?』
「どういうこと?」
『……はぁ』
どういう理由かわからないけど頭の中でため息を吐かれてしまった。
とりあえず炭水化物を適切に補給することが大切だってことはわかった。だったらパンの付け合わせは、食物繊維も考えて野菜と豆のスープかな。
そう思い立って、冷蔵庫の中から刻んである野菜を取り出した。それと大豆の水煮。
料理は嫌いじゃない。むしろ好きだ。お母さんにも仕込まれたし、一人暮らしを始めてからはますます磨きがかかった気がする。
スーパーに行けば刻み野菜の種類も多いし、今という時代は料理を始める敷居が低くなってるんじゃないだろうか。
なんて思いながら、鍋の底で玉ねぎと大豆を炒めて水を加える。沸騰させてアクを除いて刻み人参を投入だ。乾燥大豆じゃないから煮込み時間も短縮出来る。
そこにコンソメのキューブをポイっと。後はコトコト待つばかり。
「ふぅ、簡単だけどこんなもんでいいのかな? ちょ~っと早いけど味見をして……うん、いいんじゃないかな。トマトとにんにくも欲しくなるけど買って無いんだよね」
『おぉ、美味そうじゃん。ちょっとつまませろよ』
「えぇ!?」
『いいだろ別に、減るもんじゃあるまいし』
「いや、そういう問題じゃなくて。まだ完成してないし、パンの用意もしないと」
『こちとら飯を食うのも楽しみの一つなんだケチケチするなっての』
あっ、っと気づいた時にはまた体が入れ替わっていた。
「うん、なかなかじゃねえか。最後に気持ち多めの塩で整えりゃ、疲れた体にちょうどいい」
『もう。一人前しか作らないんだから食べ過ぎないでよ』
「分かってるっての。大体同じ胃袋に収めるんだからあまり気にするなよ」
そう言うとまた僕たちの体は入れ替わっていた。
彼は自由に切り替えられるけど、僕にもそのうち出来るようになるんだろうか?
それはそれとして、我が家にはホームベーカリーがある。
夜のうちに仕込んでおいてタイマーをセット、朝になったらふっくらした食パンが食べられる優れものだ。ドライイーストを自動で投入してくれて失敗が無いのがとっても嬉しい。
といっても昨日は筋肉痛だったから、今日はさっきコンビニで買った市販の食パンを食べようじゃないか。
袋から食パンを取り出して、オーブントースターにセット。
その間に目玉焼きを作っちゃおう。
「ふんふ~ん♪」
鼻歌交じりに卵を割ってフライパンに落とす。
ジュウゥッ! と音を立てて油が跳ねる。
う~んこの匂いが好きなんだな。
それから数分後。
「出来た! 体の節々が痛いのに、それでもまともな物が出来上がったのは日頃から慣れてるからかな? な~んて」
スープに、きつね色のトーストとその上に乗った目玉焼き。本当ならこの上からマヨネーズでもかけたいところだけど、トレーニング中だからちょびっとだけ塩コショウをかけて我慢だ。残念。
「というわけでいただき」『まーす。……あれ?』
「ひゅう、鼻をくすぐりやがる。そんじゃま、いただくとするか」
『あ、ずるい!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます