第11話 徹底的に痛めつけてやる<1>

 それにしても、彼から見て僕ってそんなに頼りないのだろうか?

 確かに僕は弱いし喧嘩も好きじゃないし運動も苦手だけど、それでも少しぐらいはマシになったような気がしないでもない。

 でも、そんなことを言ったらまた怒られそうだ。だから言わないでおこうっと。


 脱衣所に行くと汗でびっしょりと濡れたジャージを脱いで洗濯機の中に放り込んだ。

 それから浴室に入りシャワーを浴びる。


「ふぅ、気持ちいいなぁ……」


 温かい湯が体に染み渡っていく。

 また早朝の六時頃だって言うのになんでこんな疲れなきゃいけないんだろう?

 今までが今までだったから、体を鍛えるだとか体力をつけるだとかそんなこと言われてもピンとこないんだよね。今の自分の体を見渡してもわかる、背は小さいし手足は細いし。


「でも体を動かした後のシャワーはちょっと癖になりそうかも」


『そうか、それなら毎日欠かさずやれよ』


「えぇ……毎日はちょっと。一週間に一回ぐらいじゃダメかなぁ?」


『言い訳がねぇだろ、それで一体どうやって体を鍛えるってんだ、アァ?』


「そんなぁ。これを毎日は無理だよ、ただでさえ筋肉痛が残ってるのに」


『それが残ってるからこの程度で済ませたんだよ。俺に感謝しろ』


 え!? じゃあ本当ならもっとキツいの? うっそぉ!?


「そんなぁ。先が思いやられるよぉ」


『そいつは俺のセリフだろうが。朝ジョギングして一回喧嘩して、それだけでバテやがって。体力が無さ過ぎるんだよ、せめて同い年の平均ぐらいは身につけろ、それが最低条件だ』


 そんなにはっきりと貧弱扱いしなくても……僕自身がよくわかってるわけだし。


『有酸素運動だけしても仕方が無いが、トレーニング器具を扱うだけの筋力も無い。風呂から上がって飯食ったら自重トレーニングだ。筋肉痛を悪化させない程度に腹筋、腕立て伏せ、スクワット、それに柔軟体操だ。分かったか? 返事をしろ』


「う、うん。わかったよ。頑張るよ。……はぁ、本当に大変だなぁ。これから先ずっとこんな感じなのかぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう」


 シャワーを浴びた後は、ドライヤーの風が気持ちがいい。

 髪を乾かした後は化粧水とクリームで肌を整えて、部屋服に着替える。


「これからもこんな生活するんだったら制汗剤も買っておかないと、汗臭いのは純粋に嫌だし」


『ま、それも大切だがな。お前はまず自分の身を守れるようしっかり考えて行動できるようにならないとな。元々不良に目をつけられ易い見た目と性格なんだ、気ぃ緩んでるとといつか痛い目を見るぞ』


「やっぱり僕ってそんな風に思われてるのかな。そりゃあ自分でも気が小さいとは思うけど。でも、これからはちゃんと気をつけるよ。また殴られたりしたくないし」


『そうだ、だがそれだけじゃダメだ。自分の方がより強いってことを思い知らせてやらなきゃな。それに安心しろ、いざって時には俺が徹底的に相手を痛めつけてやる。俺達の姿を見ただけで竦み上がって逃げ出すぐらいになぁ。ケッケッケ』


「あんまりやりすぎると僕の生活にも影響が出るんだけど……」


 なんて言ったって彼は聞いてくれないだろうな。昨日からの付き合いだけど、なんとなくそれぐらいは分かるようになってきた。

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