第8話 悪を狩る敵

「折角だ、このまま元を断ちに行くとするか……」


 ”僕”は誰に聞かせるでもなくそんなこと呟いていた。

 元? 何だろう元って?


「え? 耀真さん今なんて」


 呟き程度の大きさの声でしかなかったのに、涼華ちゃんには聞かれていたみたいで、”僕”に尋ねてきた。


「おい、お前達はとっとと家にでも帰れ。俺は野暮用が出来た」


 だというのに、そんな涼華ちゃんを無視するようにぶっきらぼうに帰れと言ってる。こ、これはちょっと失礼じゃないかな?


「ちょっと待ってくれないか。耀真君、キミはいきなりどうしたって言うんだ?」


「うるせえな、聞こえなかったのか? どこにでも消えろ。俺は今から馬鹿共の根城を潰しに行くんだからよ」


 なんてことだ! 静梨さんに対してまで失礼な態度をとって!?

 それに元って不良の人達と喧嘩をしに行くってことなの? そんなぁ……。


「……本当にキミなのか? そんな乱暴な……」


「あいつらを潰しに行くんですか? だ、だったらオレもっ!」


「邪魔」


「え?」


「俺は一人でやりたいんだよ。分かったらさっさと帰れ。……あばよ」


 ごめんなさい二人共!!

 いくら夢の中の話とはいえ、こんなに失礼な態度を取るだけ取って、僕の足は不良の人達の根城とやらへ向かい始めた。



「あ、……行ってしまった。彼の身に一体何が起きてるんだ? 涼華、キミもどう思」


「ワイルドな耀真さんも、かっけぇ……! シビレれちまったぜ!!」


「……はぁ。全く、こっちもこっちでどうかしている。しかし本当に彼は何者なのだろうか?」


 ◇◇◇


「ここがあのウジ虫共の根城か」


 う、ウジ虫ってひどくないかな? なんて思ったって僕の口は次から次へと勝手に乱暴な言葉を吐く。

 さっきもやっぱりひどすぎると思う。心配してくれた二人にあんな……。


「うるせぇな」


 え?

 僕の考えに反応したように思えたけど、これも夢特有の何かとか?


「しっかし、ボロい学校だな。年季が入ってるといえば聞こえがいいがな、それだけにヤンキーの巣窟ってのにも説得力があるってか?」


 鼻で笑う”僕”。

 でも確かに”僕”が言う通り、うちの高校と比べてお世辞にも綺麗な外観はしていなかった。

 校舎は木造で所々が朽ちているし窓ガラスにはヒビが入っているし、壁なんか落書きだらけだ。


「さてと、そこら辺に雑魚でも歩いてやしないか、……お?」


 ぐるりと辺りを見ます”僕”の目。

 雑魚って言うのは下っ端の不良の人のことを言うんだろうか? そんな人を見つけてどうするんだろう?

 そんなことを考えているうちにそれらしい人を見つけてしまった。


「おい、そこのブサイク。ちょっと面貸せ」


「あ”あ”!? テメェ誰に向かって言ってやがんだ? そもそもどこのもんだゴラァ!!」


 どうしていきなり挑発を始めたの!?

 相手の人ものすごく怒ってる、当たり前だよぉ!


「うるせぇんだよ。汚い面をいつまでも向けんな、俺の言う通りにすればそれでいいんだ。テメェの足りねぇ頭でも簡単だろさすがによぉ」


「んだと!? この野郎、ッ!!? がぁッ!?」


「だからうるせぇつってんだろ」


 殴りかかってきたその人の腕をひねり上げる。

 悲鳴を上げるその人を気にもせずに”僕”は質問をした。


「テメェらの頭は何処だ? それだけ答えたらこれで勘弁してやるよ」


「な!? テメェ、カチコミに来やがったのか?! ザケやがって! ……がぁいてェッ!?」


「何度も同じことを言わせるなノータリン、テメェらの頭は何処だって聞いてんだよ。このまま腕の関節を逆に折ってやってもいいんだぜ?」


「やめろ! わ、わかった。番長の場所は……」


 頭って番長の事だったのか。別に必要だと思えない知識が増えてしまった。

 その人の場所を聞きだした”僕”は、目の前の不良を解放した。


「ほら、早くどこへでも消え失せろ。わざわざ離してやったことを感謝しろよ」


「……ふ、ふざけんじゃねぇェ!!!」


「馬鹿なヤツだ……」


「うげぇええええ!!?」


 逆上した不良の人の一人が”僕”に飛びかかっていく。それを軽くかわすと”僕”の拳がその不良の鼻の下に食い込んでしまった。

 不良の人は悲鳴を上げて倒れてしまう。


「さぁ、町のゴミを片付けに行くか」


 ゴミ? 何のことだろう? ……まさか不良の事!?

 あんまりな暴言だけど、”僕”は楽しそうにしている気がする。


 ◇◇◇


「何、カチコミだァ? 相手は何人だ? ま、どこのもんか知らねぇがわざわざ乗り込んで来るなんざ馬鹿な連中なのは違いねぇな」


「そ、それが正確な数は分からず、なんせ気づいた時にはやられているようで。誰も姿を見て無いんす!」


「なんだと!? 舐めやがって、クソが!」


「そういう事ですんで、俺もこれから加勢に行って……っぁ!?」


「おうおう、ここか? ボス猿の巣ってのはよ」


 いろんな不良の人達を襲撃して、やって来たのは番長が居る部屋。

 学校に番長の部屋があるって何? って思ったけど、本当にあるんだ……。

 部屋から出て来た人を”僕”は殴り飛ばしてしまったけど、何もしてない人を気絶させるっていうのはやっぱりどうなの?


「何もんだテメェ?! 一体何の了見で乗り込んで来やがった?!!」


「何のだぁ? 手下の躾がなってねぇから善良な一般市民が迷惑してるんだよ。ちまちま雑魚を潰していったところで変わりゃあしねぇだろうし……そんな訳でテメェの首獲らせて貰うぜ」


「舐めてんじゃねぇぞクソチビがぁぁぁぁぁぁ!!!」


「臭ぇ息をまき散らすなよ、鼻が曲がるじゃねえか。ま、所詮テメェは吹き溜まりの親分。よく言って肥しの王様。普通の人間から見たらどの道、町の公害が関の山だからな。臭ぇのも仕方ないか。ひゃあっはっはっは!!」


「……ぶっ殺すッ!!!」


「いっちょ前に吠えんなよ? ただの雑魚共のボスがどれ程のものか、この俺様が直々に試してやるよ」


「クソったれがァアアア!!!」


 頭に血が上った番長の人は、懐に忍ばせていたナイフを取り出した! 危ない!! 刺されちゃう!!!!


「大振りなんだよ」


 番長の人は”僕”よりもずっと背が高いのに、”僕”はまるで子供を相手にしているかのように余裕で避けてみせた。

 そして、ここに来るまでも不良の人から奪った鉄パイプで相手の膝を思いっきり叩いたんだ。


「ぐぅあああ! ……テメェ! ナメやがって! もう容赦しねぇ! ブッ殺してやらァァ!!」


「おいおい、そんなオモチャを振り回すだけか? ボキャブラリーも無きゃ、やる事も単純だな」


 膝を痛めて、必死の形相でナイフを振り回してくる番長の人。

 それに対して、鉄パイプを両手でしっかりと握りしめた”僕”は……。


「結局、猿山の大将だったな。もう飽きちまったぜ。……あばよ」


 ナイフの動きの動きを見切ったように、相手の喉仏へと鉄パイプを突き入れた。


「ッゴ!? ォっ……」


 そのまま力を込めて押し込むと、番長は白目を剥いて倒れた。


「無様なもんだ。これが一つの学校をまとめ上げたヤンキーの姿か? まぁ、いい。最後の仕上げだ」


 ”僕”は泡を吹いてる番長の人の懐からスマホを取り出して、写真をアプリを起動させた。


「しっかりロック掛けて無いお前も悪いんだぜ? だから……こうなっちまうんだよ!」


 気絶している番長の人の写真を沢山撮ると、今度はメッセージアプリを起動して撮った写真を添付して登録してある全ての人に送信してしまった。


「これでテメェのヤンキーの人生も終わりだな。これから先は元下っ端のヤンキー共の下剋上に遭わないようビクビクと過ごすといいぜ。きぃっひっひっひゃはははは!!」


 何が可笑しいのか、”僕”は高笑いをしていた。

 こんな恐ろしい事をするなんて……。む、惨い……!

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