第7話 向かってくる暴力は潰すだけだ

 放課後の帰り道。

 男友達すらまともにできたことがない僕が、女の子二人と一緒に帰ることになるなんて。

 こんなの今までの人生で全く経験がないからどうすればいいとかわからないよ。

 し、しかもそれが両方とも美人で性格もいいなんて……。

 もしかしたらこれから何か酷い目にあったりして。はは、まさか。


「そういえば涼華ちゃんってどこのクラスなの?」


「ああ、そっか知りませんでしたっけ? 耀真さんと同じですよ」


「え? でも午前中見なかったけど……」


 今日を振り返ってみれば、確かに空席があったのを思い出した。という事はそこが彼女の机だったんだろう。それに担任の先生が名前を呼んでいたような……。

 でも、それならそれで来なかった理由は何だろうか?


 そう考えていると、静梨さんが察したように答えてくれた。


「涼華は道に迷って午前中ずっと街中をさまよっていたらしい、だからちゃんと道を覚えておけとあれほど……」


「うるせぇな。いいじゃねぇかよ、ちゃんとたどり着けたんだから」


 そうかだから見かけなかったのか。

 それはそれとしてこの二人は何かあるとすぐに口論を始めるんだな。

 仲が悪いというよりはお互い遠慮のない関係というか。



 そのまま口論を続けてそこそこの距離を歩いた。

 付き合いの長さというのもあるんだろうけど、何とも疎外感。いや別にいいんだけれど。だって女の子と何を話せばいいのかわからないもの。


 そんな風に三人で下校している途中、僕達はコンビニの前を通りかかっていた。

 この辺りはちょうど僕の家と学校との中間地点だ。場所が場所だけに色々と便利なコンビニ、だなんて思いたいんだけど。実のところあまり利用したことがない。その理由は……。


「あのコンビニ、こんな時間にもう不良がたむろしてんのか。人のこと言えたタチじゃないが、ロクでもねぇな」


 涼華ちゃんが誰に聞かせるわけでもなく呟く。

 そう、あのコンビニはどういうわけか不良の人たちのたまり場になっている。いつの頃からそうなっているのかはよく知らないけれど、少なくとも僕が中学生の頃にはもうそういう風になっていた。


 まだ日が完全に落ちてるわけでもないこんな時間帯に、不良の人達はコンビニの前に集まって大声で笑い声をあげている。

 そんなものだから、この時間帯にあのコンビニを利用する人は不良の人以外に居ない。

 店長は何をやっているのか? とか、どうして警察に通報しないのか? とか、よくそんな話を聞くけれど、特に対処をされていないのも事実だ。それがどういう理由でかは分からないけれど。


 とりあえずそういう理由で、僕はあまりあのコンビニを利用することがない。

 いや、もっと言えばこの辺りはコンビニ以外にも不良の人達が集まりやすいので、まっすぐ帰るようにしてるんだ。


「彼らの制服はうちの高校のものじゃ無いな。あれは確か……」


 静梨さんは思い出そうとしながら口を開く。


「ああそうだ、隣町の男子校の制服だ。……正直あまり良い噂は聞いたことがない。何でも暴力沙汰が絶えないとか」


「え、そうなんですか? 僕はあまりそういうことは詳しくなくて」


「流石は耀真さん。あんな雑魚連中なんて初めから眼中にないってそういうことですね?」


「いやそういうわけじゃなくて……」


「そんな謙遜しなくてもいいじゃないすか。ま、オレもそこまで詳しく知ってるわけじゃないんで軽く説明させてもらうと、中学のヤンキー連中の受け皿的な高校らしいですぜ。どんなバカでも入れるって噂があって、学歴だけは気にするヤンキーが集まってるとか」


 そんな恐ろしい学校がこの辺りにあったなんて、全然気づかなかった。

 今度から気をつけて登下校をしないと。


 あまり長居したくないから、早々に立ち去ろうとした時……。


「おう! そこの兄ちゃん達よォ!!」


「あん? 何だ?」


 急に大声が聞こえてきて涼華ちゃんが反応した。

 声の方角は……うわぁ、コンビニの不良の人達だ。

 その人たちはものすごくいやらしい笑みを浮かべながらこっちを……いや、静梨さんだ! 静梨さんを見てるんだ!


「何だァ、テメェら……?」


 涼華ちゃんが急にものすごく低い声を出して不良の人達を睨み付ける。

 こうして見ると彼女も不良だ、正直怖いよ。僕、よく彼女と喧嘩が出来たな。

 ふと静梨さんを見ると、彼女も目つきがきつくなってる。


 三人程いる不良の人たちがニヤニヤと笑いながらこっちに近づいてきた。


「随分と綺麗な姉ちゃんを連れてるじゃねえか」


「ちょっと俺たちに貸してくんない?」


「俺たちの方が絶対その女を楽しませてやれるからよぉ。へへへ」


「あーん? 何言ってんだテメェら!」


「残念だが、私はキミ達のような下劣で低俗で粗暴で野蛮で下品な人間には興味がない。何より人を人と扱わない所が癇に障る」


「あ? ああ!? 誰が下品だコラ!!」


 不良の一人がいきり立って静梨に向かって拳を振り上げる。


「あ、あの! この子達は関係無いんで見逃してもらえませんか!?」


 僕は慌てて二人の前に出て不良達に頭を下げる。

 不良の人に凄まれたりすると、どうしても怖くて萎縮してしまう。

 でも女の子たちを守るためだ。ボコボコにされても二人を逃がさないと。


「引っ込んだろチビィ!!!」


「ぐっ!?」


 覚悟はしていたけど、不良の一人がものすごく怒って僕の頭を殴りつけてきた。

 気が、遠くなる……。


「な!? 耀真さん!! ……テメェらァア!!!」


「私の友人をよくも……! さすがに見過ごすことはできんぞ!!」


 静梨さんと涼華ちゃんの怒鳴り声が聞こえてくる。でもだめだ僕の意識が遠のいていく。

 何て情けないんだ、僕は……。



 本当に情けないなお前、あんな雑魚に一発頭に貰っただけでダウンしやがって。



 まただ、またあの声が聞こえてきた。一体誰なんだろう?



 とっとと変われ、喧嘩の手本ってのを見せてやるよ!



 ………………。



「…………よくもまあ好き勝手やってくれたじゃねえか。覚悟させる時間もテメェらにゃいらねえよなぁ?」


「耀真君? 急に一体どうしたんだ」


「よ、耀真さん? 何か雰囲気が変わって……それに目つきも」


「引っ込んでろ二人共、すぐに終わらせるからよ」


 また夢だ。また僕の口が勝手に動いてる。

 でも、静梨さん達にそんな乱暴な言い方しなくても。

 勝手に動くから制御が出来ないよ。後で怒られたりしないかな、こんな事言って。

 夢だから問題無いのかな? でもやっぱ感じ悪いなぁ。


「何だぁ? 急に強気になっちゃってよぉ」


「頭殴られちゃったんでおかしくなっちゃったのかなぁ?」


「ぎゃっはっは! そりゃあいい、それならもっと殴っても問題ねぇなぁ!!」


 一人の男がそう言うと、他の三人も笑い出す。


「言ったよな俺は? すぐに終わらせるからってな」


「はあ? 何言って……ッがは!!?」


 僕の拳は不良の一人の顎を打ち抜いていた。

 僕の身長が低いからか綺麗に入ってしまい、その人はそのまま目を白目にしたまま倒れてしまった。


「お、おい!? ……よくもやりやがったな」


「そいつをやったからって調子に乗ってんじゃねえぞゴラァ!!!」


 残りの不良達が一斉に僕に襲いかかってくる。


「オラァ!」


 一人の不良が僕に殴りかかってくる。それを軽くかわすと、その不良のお腹に拳を叩き込む。

 あ、この位置って肝臓辺りじゃ……。


「うげェェエエッ!!?」


 また一人倒れた。


「ひぃいいいい!!」


 もう一人の不良が悲鳴を上げて逃げようとする。


「待てよテメエ、まだ終わってねぇだろうが?」


 逃げる不良の首根っこを掴み、そのまま足を掛けて地面に叩きつける。


「ごべばぁ!? っ……」


「……自分で言ってなんだが本当にすぐに終わっちまったな。ヤンキーらしくもっと根性見せろってんだよ」


 自分で叩きのめしておきながら勝手なことを言ってる。

 いや、僕の口からなんだけど。

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