第6話 図らずも二人の女性に挟まれる気弱な少年
「ん? 涼華じゃないか居たのか。キミは耀真君と知り合いだったのか?」
「知り合いだと? 馬鹿言え、オレと耀真さんは知り合いところか友達だぜ! わざわざこのオレの事を友達と呼んで下さったんだ。ですよね耀真さん?」
へへ、と誇らしげに語りかけてくる。別にそんな大層なことじゃないけど……。というか、二人とも知り合いだったのかな?
「ああ、彼女との関係が気になるかい? 私と涼華は近所に住んでる幼なじみだ」
「え? そうだったんですか!?」
「つってもそんな大したもんじゃありませんぜ耀真さん。このアマと来たら、単に家が近いってだけで色々とうるさく口出ししてくるような鬱陶しい女ですよ。耀真さん程の男がそんな下手に出るようなタマじゃ全くありませんぜ」
「失礼だな涼華。キミが人一倍ズボラで困る昔から君の母上に頼まれているだけじゃないか、文句を言われたくなかったら、もう少しまともな学生生活というものを……」
「ほらね? こういう奴なんですよ」
説教するように喋る静梨さんとやれやれと言った具合の涼華ちゃん。
これがこの二人のいつもとのやり取りなんだろうな。
「はあ、なんか意外と言うか……。取り敢えず静梨さんとはこれまで通りでいいよ。今更態度を変えるなんて失礼だと思うし」
「なんて優しい男なんだ! 流石です耀真さん。静梨なんぞにそこまでするなんて……。おい静梨! 耀真さんの太陽の様に慈悲深い心意気に、ありがたーく感謝しやがれよ!」
「キミはどういう立ち位置なんだ? それより耀真君、本当に大丈夫かい? 背中に瓦礫が直撃したんだろう? 二日連続で気絶してしまうような目に合うなんて、相当無理をしているんじゃないか?」
確かに二日連続で気絶するような目に遭うなんて普通じゃない。そんなクラスメイトがいたら必要以上に心配してしまうのも仕方がないよ。
でも、流石にこれ以上は心配掛けられないし、ここは嘘でも大丈夫だって。
「平気、平気ですよ! それに自分から怪我しに行ったようなものだし、自業自得というか」
「何言ってんすか耀真さん! オレを庇ったから出来た名誉の負傷じゃないですか。もっとカッコつけても罰当たりませんぜ!」
「……つまりなんだ、耀真君の怪我はキミが原因だったのか涼華?」
「ああそうだ。なのに自業自得だなんて……、くぅ~粋が過ぎますよ!」
静梨さんの様子が少し変わったような。
ま、まさか涼華ちゃんに怒ってる? 彼女の性格ならあり得る。
ここはひとまず話題をそらさないと。
「か、彼女って昔からこんなテンションなの?」
「物事を大袈裟に捉える所もあり、尚且つ人の話を聞かない所もある。私自身も何度も悩まされてきたのさ。……が、それは置いておくとしてだ。涼華が怪我の原因というのなら詳しく聞かねばならないな。涼華、何故彼に怪我をさせような真似をした?」
あ、ダメだった。
ちょっと声色が冷たくなった感じがする。それにちょっと怖いかなぁ……。
「う……。そ、そりゃあオレだってそんなつもりじゃなかったさ。これが喧嘩の怪我ならお互い様だしな。でも、でもそうじゃないからオレは責任を取るつもりもあって耀真さんの舎弟に」
「いや、だから友達だって。彼女、色々と誤解してたみたいでして。なんか僕の事を喧嘩の強い人かなんかと勘違いしていて」
「それで喧嘩を挑まれた。その際の事故でキミが不本意な怪我を負わせられたということか、なるほど」
なんとか逸らせないかなって思ったけど、やっぱり何やっても話題が元に戻るような気がする。
「いや、だからこれは……。涼華ちゃんからもお互いの行き違いで起きた不運な事故だって言ってあげて。僕は別に喧嘩だって強くないし」
せめてこれ以上こじれないように涼華ちゃんに希望を託すことにした。
お願い、これ以上静梨さんを怒らせるような答え言わないで!
「またまたご冗談を。あんなにオレを熱くさせた男が謙遜する必要なんてないじゃないすか。あれはオレの方に責任があって」
あ、こっちもダメだ。
「そうこれはキミの責任だ涼華。ただでさえ初日に大怪我を負っていた耀真君に喧嘩を挑み、事故とはいえ怪我を合わせたのだから。これはさすがに見過ごすわけにはいかないな」
「あん? だから責任を取って舎弟にって」
「いやだからこれは僕の自業自得で……」
「しかしだ。やはり何らかのペナルティがなければ……」
そんなよくわからないやり取りを三人で行いながら、そこそこの時間を掛けて出した答えが……。
「わかった。私自身はあまり納得がいかないが、他でもない怪我をさせられた本人が別にいいというのであればこの場は納めなければならないな。……だがな涼華、キミには今後如何なる理由であろうと耀真君を危険な行為に巻き込まないことを約束しろ。いくら耀真君がキミを友達と言っても限度がある、いいな? もし約束を破った時は……」
「皆まで言うんじゃねえ! オレだって耀真さんの一番の舎弟にしてダチだ。危ない橋はまずオレから渡って耀真さんの安全を確保してやるぜ!」
「本当にわかっているのか? はぁ……」
「あ、あはははは……。まぁそのぉ、とりあえずはこれでいいんじゃないでしょうか?」
一人テンションの高い涼華ちゃんに溜息を吐く静梨さん。
何とか穏便にしか形で収めることが出来た、のかな?
でも意外な素顔っていうのかなこれは? 常にクールな静梨さんも、幼馴染相手だとこんな感じになるんだな。
「さてと、随分と長く話し込んでしまったような気がするが、もう遅い時間だ。我々も下校しようじゃないか。耀真君はどのあたりに住んでるんだったかな?」
「あ、え~と。この学校を出てですね……」
僕は自分の住んでる家の大まかな場所を伝えた。
それを聞いて静梨さん達の住んでいる地区は、僕の家の方向にある事が分かり、途中まで3人で帰ることにした。
まさかあの静梨さんと一緒に下校ができるなんて、ちょっとドキドキする。
「あ! 耀真さん顔が赤くなってますよ!? もしかして熱でもあるんじゃあ」
「それはいけない、また保健室に戻って……」
「こ、これはそういうんじゃありませんから! 大丈夫ですって二人とも!!」
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