第5話 友達または舎弟が出来た

「……はっ。またこのパターンかぁ」


 気付くと、また保健室に居た。

 そして案の定、カーテンの隙間から夕陽が差しているのが分かる。

 二日連続だ、何やってるんだろう僕。


「ごめんなさい先生。またお世話になって……」


「目を覚ましましたか耀真さん!」


「へ?」


 起き上がってカーテンを開けると、出迎えてくれたのは……昼に喧嘩を仕掛けて来た彼だった。

 でも明らかに態度が違う、好戦的だったはずなのに、今はむしろ僕を本気で心配するような眼差しを向けてくる。

 それに呼び方が『お前』から名前呼びに変わってるし。


「えっと……待っててくれたの?」


「はい! だって気絶したまま放置なんて出来る訳ありませんよ。キッチリ保健室まで運ばせてもらいました」


 何を当たり前な事を言わんばかりの彼の態度に困惑する。まるっきり別人だ。


「私が見ているからって言っても聞かなかったのよ? 何とか授業にだけは行かせたけど」


 保健の先生が苦笑しながら言う。という事は休み時間の度に保健室に来ていたんだな彼。


「あ、これ。もう放課後なんで持ってきました。耀真さんのカバンに昼食べ損ねた弁当、受け取って下さい!」


「あ、ありがとう」


 あまりにキラキラした目で見てくるから、思わず身構えてしまった。ギャップがひどすぎるよ、一体何があってこんな風になっちゃったの?


「昼はオレなんかの為に、保健室送りにさせちまって。申し訳無い気持ちでいっぱいっす! 何なりと命令して下さい、じゃないとオレの気持ちが収まらない……!」


「えぇ……。じゃあ一つ聞くけど」


「はい、何でしょうか?!」


「君、随分と変わったね。もっとこう、バチバチというかギラギラしてたと思うんだけど。何かあった?」


「そいつは……、その……ですね。へへ、実はオレ、耀真さんには勝てない事が分かったんです。だって、一方的に喧嘩を売って来た相手を必死に庇って代わりに自分が傷つくなんて、そんな器のデカい男を叩きのめそうなんて……オレにはもう出来ません。その男気に感動しました!」


 何を言ってるんだろう? 全然分かんないや。


「オレを舎弟にして下さい! 耀真さんについて回って、その心意気を学んでみたいんです! お願いします!!」


「いや、舎弟ってそんな……。困るよちょっと」


「そこを何とか! 耀真さん以外について行きたいと思えるような奴はこの学校に居ないんです!」


 そんな事言われても……。僕は別に不良でも何でもないし。


「して上げたら? じゃないと引かないと思うわよ」


「でも舎弟はちょっと……。あぁ、う~ん。じゃ、じゃあ友達はどうかな? 僕まだこの学校で友達が居ないから」


 親しくって程でも無いけど話し相手なら居る。けど静梨さんは高嶺の花過ぎて友達なんて畏れ多いし。それに友達って、今までほとんど出来た事が無いから憧れはあるんだよね。


「友達……。そんな、オレなんかを対等に見てくれるんですか? ……なんて、なんて懐のデカい男なんだ! 分かりました。オレ、耀真さんのダチとして一生ついて行きます!」

 

 ビシッと綺麗な敬礼を決める彼。

 あ、あれ? あんまり舎弟と変わってないような気がする。


「うんうん、綺麗な所で収まったわね。先生も嬉しいわ、”彼女”も随分と喜んでるし」


「はあ……。え? 彼女?」


 先生以外に女性は……、やっぱりここには居ないな。

 一体誰の事を言ってるんだろうか?


「ああ、貴方知らなかったのね。この子の名前は宗田そうだ涼華すずか、男子生徒の恰好してるけどれっきとした女の子よ」


「え? ……えええええ!?」


 言われて見れば顔立ちとか、女の子寄りに見えなくも無い。

 ……ううん、意識して見れば結構可愛いぞこの子。意識しなければイケメン顔だけど。でもこれで気付けって言うのは無理な話だよ。


「なんでわざわざそんな恰好を? 別に女子の制服でもいいんじゃ」


「あ、これですか? 小坊の頃から男子に舐められたく無かったんでそん時からの癖みたいなもんっす。今じゃこっちの方がすっかり板についちゃって。へへ」


 照れくさそうに話す彼、いや彼女。まあ人それぞれ事情ってものはあるけれど。



 保健室を出た僕。と、その後ろからニコニコしてついてくる彼女。


「えっと、宗田さん?」


「そんな宗田なんて、オレの事はもっと気安く涼華って気安く呼んで下さいって!」


 そんな事言われても、女の子の事を名前で呼ぶのは恥ずかしいというか。

 そりゃあ静梨さんの例もあるけど……。

 やっぱ呼び捨ては無理だよぉ。


「じゃあ涼華さん……」


「さん付けなんて畏れ多いですぜ! ここはやっぱ思いっ切り呼び捨て下さいよ」


「呼び捨てはちょっと……。そ、それじゃあ涼華ちゃん……でいいかな?」


「ちゃん!?」


「や、やっぱ駄目だったかな。でもそれ以外は思いつかないんだけど」


「いや構わ無いっす! ちゃん付けで呼ばれるなんて久々だったから思わず驚いちまって、すんません」


そう言って頭を下げる彼女。本当に嬉しかったらしい。


もう授業も終わってるらしいし、あとは玄関に行って靴を取りに行くだけ。

その途中で僕は偶然にも静梨さんに出会った。


「ああ、耀真君。目を覚ましたんだね、心配していたよ」


「あ、静梨さん! ぼ、僕なんかそんな心配する程でも」


「何を言うんだ。同じクラスメイト、それも隣同士なんだから心配の一つ……。むしろしない方が白状というものだろう。キミが無事なようで安心した」


 そこまで僕の事を……!

 静梨さんの事だから一クラスメイトを気にかけた以上のものは無いんだろうけど、でも密かに憧れてる女性に心配してもらったのは素直に嬉しい。


「静梨さん、心配してくれてありがとうござい」


「おうおう、静梨よぉ! お前、一体誰に向かってそんな気安く話しかけてんだ? ア゛ア゛ン!!」


 ありがとうございます。そう感謝を伝えようとしたけど、横からの大声でかき消されてしまった。

 その声の主はもちろん涼華ちゃん。


 え? 急にどうしたの!?





[あとがき]

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