第4話 襲い来る挑戦者のピンチを救ってしまう。そして目覚める思い

 それから妙な居心地の悪さを感じながら昼休みを迎えた。

 なんとなくだけど僕は、クラスの人達と壁を感じるような。それでいて先生たちからも。


 やっぱり一人だけ自己紹介とかしてないからかな? それにあんな美人と会話とかしてたから。

 でも中学の頃前と比べたらちょっとは進歩したのかな? あの頃はそもそも注目とかされなかったから、先生にすら忘れられるような感じだったから。

 それと比べたらまだマシなのかな?


 静梨さんも席を外してるし、僕は手作りのお弁当を持って教室を離れる事にした。

 どこで食べようかな?



「あいつ、飯持ってどっか行ったぜ」


「ふぅ、息が詰まった。いつキレて暴れられるか分かったもんじゃないな」


「お、お前ビビリすぎだって。別に何もしなきゃいいだけだろ?」


「お前も声が震えてるぞ」


「私このクラスでやっていけるかなぁ。やっぱり同じクラスに不良が居るのはちょっと」


「静梨さんも何であんなに平気でいられるんだろう? やっぱり中学の頃生徒会長をやっていたからとか」


 ◇◇◇


 お弁当を持ってどこかいい感じの場所はないか探し回る。学校の地理はもう頭に入ってるけど、こうやって実際に歩くことで発見することもあるんと思う。


「あ、ここなら誰もいないかも」


 教室から遠く離れた別の棟、そこの屋上に辿り着いた。ここなら人も少ないだろうと思って。

 同じ屋上でも僕が散々いじめられた場所とは違うから、ちょっと勇気を出せば問題なかった。

 給水塔の裏に隠れるように座り込んで、持ってきたお弁当を広げた。

 一人レベル家に残される事が決まった時、お母さんに家事のいろはを教えられた。その成果だ。


「いただきます」


 自分で作ったご飯を食べる。うん、おいしい。


「でもやっぱりお母さんが作ってくれたお弁当の方が美味しいな」


 なんて一人で言ってた時……。


「おい、お前が高島って奴か?」


「え?」


 不意に声をかけられて声の方に振り向くと、僕よりも背の高いショートカットの男子生徒が居た。学生服のデザインから同じ一年生だろうか。


「あの、えっと、君誰?」


「余裕だな高島。流石は入学早々名を上げただけの事はある。オレがやろうとした事を、まさかの半日程度でやってのけるとはな。正直、驚いたぜ」


 何言ってるんだろう? 話が全然見えてこないや。


「それで、一体何の用事かな? 今ご飯食べてるから、話があるならその後で」


「飯をまだ食ってないっていうんじゃ同じ条件だ。オレもまだ何も腹に入れてない、対等に話の方を優先しようぜ、なぁ?」


「いや、でも」


「それで何の用事かって聞いたな? オレはこの学校のヤンキー共を叩きのめして一番になるはずだった。だが、残念なことにオレよりも先にその座についた男がいる。言ってしまえばチャンピオンに挑むチャレンジャーってわけだな。っというわけで早速やろうぜ」


 そこまで言うと彼は、両手を前に構えてこっちに向かってじりじりと近寄ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!? いきなりそんなこと言われても……。だいたいお互いまだご飯も禄に食べてないんだし、それだけでも」


「喧嘩の前に飯を食うなんて余裕のある証拠だろ? オレは油断なんかしない。例えお前が喧嘩のプロと思えないようなひ弱そうなチビだったとしてもな。さあ、行くぞ!」


 そう言い終わると同時に、僕の方へ飛びかかってきた。


「うわっ」


 思わず後ろに倒れてしまったけどおかげで攻撃を避けることができた。


「軽いジャブ程度とはいえ、今のを避けて見せるとはな。やっぱり見た目通りの野郎じゃないみたいだな」


 にやりと笑う彼。でもきっとものすごい勘違いをしている。

 彼は多分僕が不良の人たちを倒したんだと思ってる。でもそれは別の人なんだ! 会った事はないけど、僕と同じように不良に絡まれて、それでいて返り討ちにした人は別にいるんだ!

 まずは誤解を解かないと、喧嘩なんて僕にできるわけないじゃないか。


「ま、待って! 君は何か誤解してる……」


「おしゃべりの時間は終わった! 話があるならお前がオレに勝ってからにしな!」


 まずい! 彼は僕の言うことなんて聞くつもりは全くないぞ!

 とりあえず距離だけでも取ろうと思って立ち上がったけど、その時にはすでに彼が目の前まで迫ってきていた。


「オラァッ!!」


 彼の拳がまっすぐと伸びてくる。

 ひぃ!?



 今すぐ横に顔を動かせ。



(え?)


 急に頭の中に声が聞こえた、わけがわからなかったけどとりあえずその声に従うことに。

 そうすると、顔に当たるはずだった拳は直前に避けられたことで空を切った。


「いいぜ、そうじゃないとな。それでこそ挑む甲斐があるってもんだ!」


 その後も何度も殴りかかろうとしてくる。

 それからも僕は声に言われるままただひたすら避け続けた。


「やるじゃねぇか、なかなかの反射神経だな。でもそいつは悪手だ。逃げ続けてもいつかは捕まるぜ」


 確かにこのままだといずれ僕は彼に掴まってしまうだろう。

 でも僕にはどうすることも。


 奴の動きが見えてきたぜ。さあ、反撃と行こうじゃねぇか。


 頭の中の声が、生き生きとそんなことを言ってくる。

 何が何だかわかんないけど無責任な。反撃なんて一体どうすれば? 僕は人を殴ったことなんてそんな経験は全くないのに。



 いいか? 野郎が殴りかかってきたら思いっきり懐に飛び込め、カウンターで膝に足をぶち当てろ。



 またもや聞こえる謎の声の指示。


「っしゃあ!!」


 飛んでくるのは左ストレート。ものすごく怖かったけど、その声の指示通り、相手の腕の下を潜るようにして前に出た。

 そしてそのまま勢いよく相手の膝に足をかけて、転ばせる。


 で、出来た!


「っ……なるほどな、油断したつもりはなかったけどよ。それでも驚いたぜ。まさかここまで強いとはな。だってそうだろ? まさかこんなチビがオレを地に伏せさせるほどの実力者なんてよ」


「いや、だから違うんだよ。君が考えてるようなことは何も」


「これでも中学の頃はその辺のヤンキーに名の知れたもんだが、そんなもんじゃまだまだだってことだなぁ。挑み甲斐がある、ここまで勝ちたいと思わせたのはお前が初めてだぜ!」


「き、聞いてないし」


「オラぁ! 続けて行くぞ!!」


 ダメだ、全然人の話を聞こうとしない。


「ちょ、ちょっと待ってってばー!?」


「そう言ってオレの油断を誘えると思ってんじゃねぇぞ!!」


 そんなやり取りの最中、給水塔の様子がおかしい事に気付いた。


 あれ? もしかして……。

 理由は分からないけど、グラグラと揺れているような気がする。

 そんな事を考えている間にもどんどん大きくなっていく揺れ。


 これはもう間違いないぞ。地震だ!!


「な!? ああ!!」


 僕は咄嗟に地面にしゃがみ込む事が出来たが、彼は態勢を崩してしまった。

 よろめきから立て直そうとして、地震が続くせいでふらついて、ついに階段のある塔屋へとぶつかってしまった。


「っ……! オレがこんな無様を晒すとは。だが地震は治まった、これから反撃と……」


 彼は気付いていない、地震の拍子に屋根の一部が崩れかけている事に。


 それが丁度、彼の頭上にある事に! まずい!?


「あ、危ない!?」


 僕は咄嗟に彼を庇うように覆いかぶさった。

 ガラガラガラッと大きな音を立てて崩れ落ちる瓦礫。


「っつぅ……」


 背中に痛みが走る。


「だ、大丈夫?」


「な、なんで庇った!? そんな事する義理も無いだろうが!!」


「だって……。怪我をすると痛いじゃないか。こんな事で君が傷つく事も無いと思ってさ。僕、痛いのは辛いって知ってるから」


「そんな事の為に……。喧嘩の最中に相手の事を考えるなんて……!」


「えっへあ、もう駄目みたい……」


 そのまま、僕はまたしても気を失ってしまった。ダメだなぁほんとに……。



 何やってんだよ、おい。仕様のねぇ野郎だな。


 ◇◇◇


 己を庇い目の前で倒れ伏した少年を見下ろしながら、彼女の胸の内を駆け巡る思い。それは……。


(か、勝てない……! オレとは器が違う……。こいつは目先の勝利よりも喧嘩の相手を気遣う事を選んだ……。そんなのにどうやって勝てばいいんだ!?)

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