第2話 出会う美女、会話に浮かれる幸薄少年
「……はっ。ここどこだろう?」
目を覚ますとベッドで寝ていた。体中が痛い、不良の人たちに殴られ続けたから当然か。
でもなんでベッドに寝てるんだろ? 先生か誰かが僕を保健室にでも運んでくれたのかな?
白いカーテンに囲まれたベッドを見て、ここが保健室なんだと分かった。
カーテンの隙間からさしてくる光の色を見て、今が夕方なんだと気付く。
そんなに長い間寝てたんだ。入学式が終わった後すぐに不良の人たちに絡まれたから、クラスメイトの顔もわかんないや。せめて自分の荷物だけでも取りに行かないと。
そう思って体を動かすけど、体中が痛くてうまく動かせないな。
でもいつまでもこうするわけにはいかないから、なんとか我慢してカーテンを開けた。
「あら? もう大丈夫なの高島君?」
カーテンを開けると保健室の先生だと思われる女性の人が僕の名前を呼んでいた。
「ええっと、そのもう大丈夫ですから。多分……」
「多分? あんまりやせ我慢はしない方がいいわよ。本当なら君の怪我、病院で診てもらう方が良いんだから。それなのに……」
それなのに? 一体何だろう?
ちょっと気になったけど、いつまでもここにいるわけにはいかないからお礼だけ言って出て行こう。
「心配かけてごめんなさい。もう時間ですし僕はもう帰ります。本当にありがとうございました」
「初日早々君も大変ねぇ。あんまり無茶はしないようにね。まあ君の場合は大丈夫なのかもしれないけど」
「?」
「人は見た目によらないって言うけどこんなケースは初めてね。でも、今の君は見た目通りのような……。まあいいか、体に気をつけて帰りなさい」
「あ、はい。失礼します」
先生の言ってることがいまいちよくわかんなかったけど、長居するわけにも行かないから僕は保健室を出た。
今日は入学式。授業もなくて午前中に学校も終わるから、こんな夕方に残っている一年生の生徒はいない。普通放課後の時間は誰かしら見かけるものだけど、今日ばっかりは本当に人を見ないな。
強いて言うならグランドの方から聞こえてくる声。多分部活に励んでいる二年生以上の先輩達だろうな。
そんな声を聞きながら僕は自分の教室に向かった。朝一度しか行ってないけど、実は迷わないように事前に学校のマップは頭に入れている。あんまりやることがなかったからなんとなくしていたことだけど、こういうことで役に立つんだったらやってて良かったな。
「ここだここだ。うん、やっぱり誰もいないな」
分かっていたけど、教室にはもう誰もいない。ある意味で貴重な体験かもしれないな。
そんなのんきなこと考えても仕方ないか。ええっと、僕の荷物は……。
「あった」
教室の後ろの個人ロッカーの中に入っていた荷物を確認する。
うんやっぱり僕の荷物だ。当たり前かぁ。
後は帰るだけ、今日は本当にひどい目にあった。今まであんまりいい人生じゃなかったけど死にたいとまで思ったのは今日が初めてだ。でもなんでだろう? 今は何か晴れ晴れした気分だな。
あんな目にあったのにどうしてそんな風に思ったんだろうかは自分でもわからないけれど、荷物を手に取り僕は教室を後にしようとした。
でも……。
「キミ、高島君? 高島耀真くんかい?」
突然、綺麗な声で話しかけられた。
誰だろうと思って振り返るとそこには、綺麗な女の人がいた。
「ぇ、ぁぅ……。あ、あの。どなたでしょう?」
僕よりも背の高い女性。制服を着ている事から、女性徒だとは思うけど。
「これは失礼をした。私の名前は
「ぁ、どうも……。は、初めまして。た、
緊張して思わず変な言葉になってしまった。
それにしてもこの人、すごく美人さんだ。
長く艶のある黒髪、整った顔立ちに切れ長の目、スタイルも良い。
まるでモデルみたい。
まさか同い年なんて思わなかった。てっきり先輩かなって。
こんな人と僕なんかが話してて良いのかな?
「ふむ、聞いていたような人物とは随分と違うな。やはり噂などはあまり当てにならないようだ。キミも災難だったな、まさか入学初日に不良生徒に絡まれて怪我をするなど」
「え!?」
噂になってたんだ。でもそうか、保健室にて寝ていたってことは誰かが運んでくれたってことだし、それを見られても仕方がないのか。自分で言うのもなんだけど怪我の様子もひどいし不良の人たちに殴られたってすぐに広まったんだろうな。
「えっと、その、ごめんなさい?」
「一体何を謝ってるのかは知らないが、そう卑屈になることも無い。キミだって希望を抱いてこの学校に入学してきた身、なのに早々悪漢に怪我をさせられるなど不愉快極まりない事だろう。だが安心してほしい。彼らの悪事は明かされており、教員方の間で今まさに緊急会議が行われている。これは私の推測にすぎないが、おそらくは退学処分が下されることだろう」
そんなに大事になっていたんだ!?
被害者の僕が言うことじゃないけど、まさかそんなことになっているなんて。
呆然としている僕に気づかず、不動院さんは話を続ける。
「ただ今回の場合に関して言えば、警察沙汰になることはないだろう。私自身不満の残ることだが、教員方もそこまで事を荒立てたくは無いはずだ。それに――いくら正当防衛とはいえ手を出してしまったわけだからこれ以上の処分はできないと思う。私としては、殴られたままでいろだなんてそんなものは理不尽でしかないと思うが、一方的に被害者として見る事が出来ないという見方もあるのでね」
正当防衛? 何の話だろう?
もしかしてだけど僕の他にいじめられた人がいて、その人がやり返したってことなのかな?
だとしたらすごいなあ。僕は殴り返すなんてことができなかった、一方的に暴力を振るわれて気絶してしまったんだから。情けないなぁ僕。
「これから色々とあるだろうが、私はキミの味方だ。困ったことがあったら相談に乗ろう」
「あ、ありがとうございます不動院さん! でも僕なんかの為にそこまでしなくても」
「全く気にすることはない、私も人を傷つけて楽しむような輩が嫌いなんだ。被害者のキミに寄り添ってみたい、いわば私のわがままさ。それに、私の事は静梨でいい。不動院は呼びにくいだろう?」
「そ、それじゃあ、し、静梨……さん?」
「ああ、それで構わないよ」
女の子を呼び捨てにするなんて初めてだ。
しかもこんな美人な人。ドキドキする……。
どうしよう顔が熱くなってる、気がする。
「どうしたんだい? やっぱりまだ体調が悪いのかな、今日はもう帰った方がいい。引き止めて悪かったね」
「あ、いいえそんなこと。……そういえばどうしてこの時間まで残ってたんですか?」
ふと思ったことだけど、もう他に生徒もいないこの時間帯になんで彼女は1人残ってたんだろう?
僕と同じ新入生なら当然部活なんか入ってるわけも無いのに。
「ああ、なんだそんなことか。……キミが目を覚ますのを待っていたんだ、せっかく同じクラスになったのに初日から随分とひどい目にあったようだし心配していたんだ。余計な同情だったかな?」
「そんな事ない! う、嬉しいです僕。そんな風に誰かから心配されることなんて無かったから」
同い年の男の子の友達すらいない僕だ、女の子から心配されるなんてもしかしたら今後の人生で無いかもしれない。
嬉しい、とっても……!
「そうか。そんな風に言ってくれるなら待っていた甲斐があったってものだよ。……じゃあ、また明日」
「はい! し、失礼します!」
…………し、しまった!? つい勢いに任せて教室を出てきちゃったけど、ちょっと失礼だったかなぁ?
でもなんだかすっきりした気分。今朝までは死にたいとすら思ってたのに、あんな綺麗な女の人と話ができるなんて今はむしろ幸せだ。
でも、不良にやり返した人って一体どんな人なんだろうか?
鏡を見たらわかるんじゃねえか?
うん? 気のせいかな?
どこからか声が聞こえたような気がしたけど、それ以上は気にせず僕は家に帰ることにした。
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