第六話 足手まといのマリーができるまで

マリーはその後よく眠ることができた。教会の司祭曰く、彼女の体に特に異変はない模様。ただ、教会を出る前に一言こう言われた。


『マリーさん。あんまり無理をしない方がいいですよ。体より心が疲れているでしょう。今なら冒険者をやめて別の仕事にでもつけるでしょうし。まだ若いのですからこれから歩く人生を大切にしてください。』


要するに冒険者としてはやっていけないだろうから辞めろと言いたいのだろう。言われなくてもわかってるF級冒険者を2年近くもやってる奴なんてロクでもない奴らしかいないのだから。



マリーとアイン、ジャック、ナターシャ、サラはハリムの街から少し離れたそこそこ大きい村に住んでいた。


彼女達の住む村は牧畜が盛んで、ハリムがある地方の中で畜産系を担う結構重要な村だった。そのためハリムから派遣された兵士達の駐屯所はもちろんのこと、冒険者達が泊まる宿、ギルドの連絡所など冒険者のための設備も他の村より充実していた方だった。


そう、だから他の村よりも安全で平和だった。


そして、一個隣の村に行った途端に景色は一気に悲惨なものになる。


定期的に魔物の襲撃を受け、多かれ少なかれ被害を受ける。その修復、魔物の討伐を国や村の管理を任されたハリムの役所に依頼しても思うように進まない。冒険者に依頼するにしても金がかかるし、中途半端な金では頼りになる冒険者は来ない。


そうやって被害の復旧、今後の対策に目処が立たずにまた襲われる。そして村の産業が壊され、人は減り、本来ハリムに納めないといけない税金を払えなくなる。ハリムの役人は税金が払えないことはとりあえず許してくれるが、その後で復旧や兵士の配置を頼まれるとどうしても顔を渋ってしまう。そりゃそうだといえばそうだが。


これを繰り返すことでどんどん村は悲惨なことになり、ヤケクソに盗賊を始めようとする村まで現れる始末。


マリー達は周りの村々で起きた一連の繰り返しを毎日のように大人達の噂話から聞いて育ってきた。そして、それが彼女達を冒険者になろうと決心させたのだ。



この世界の人間は生まれた時、そして幼い頃をどう育ってきたかで、ある程度才能が決まっているという。そう、その時に初期のステータスが決まるのだ。


ステータス自身はスキルポイントを振るなり、ステータスを上がるように鍛えれば上がらないことはないが。スキルポイントだけでステータスの差を埋めようとするのは修羅の道で、特に鍛えてあげようとするのは無謀なことと言っても過言ではない。


生まれつき持つ魔力の保持量や賢さ、体格、筋肉のつきやすさ、そして幼い頃に何をして、何を経験するかで始めのステータスは大体固定される。


つまりそのステータスによっては冒険者の道がより過酷なもので、もはやなることを人から止められる可能性もあるのだ。


村の教会の司祭によって自分達のステータスを見てもらい戦闘系の仕事に向いているのか否か、向いていたらどの戦闘スタイルが合うのかを教えてもらう。


その結果マリーは魔法使い、アインは剣と盾の戦士、ジャックは両手斧の戦士、ナターシャは弓使い、サラは僧侶だった。みんな希望通りの戦闘職業系の称号を獲得することができた。


今こうしてあげた職業の名を持つ"称号"(ワード)は自身のステータスやスキルが一定条件に達したから与えられ、その称号に合わせてバフが与えられる。


マリーの称号である魔法使いの場合。魔力値が一定以上、初級魔法を一つ覚えることが条件であり、バフはMP上限と魔法攻撃力略して魔攻がほんの少しだけ上がるものだ。


戦士の場合、条件は初級近接武器スキルを一つ持つこと。バフはHPと近距離物理攻撃力をほんの少しだけ上げる。


弓使いだと、条件は初級弓スキルを持つこと。バフは遠距離物理攻撃力がほんの少し上がると弓スキルツリーの拡張。


最後に僧侶だと、条件は魔力値が一定以上、初級回復魔法を覚えること。バフはMP上限がほんの少し上がるのと回復魔法スキルツリーの拡張。


称号、特に初期の称号はバフ自体はささやかだが、それがあるとないとでは侮ることができないくらいの差ができるためかなり重要なものだ。冒険者ギルドでも、いずれかの戦闘職業系の称号を持つことが冒険者登録の前提条件としている。


スキルツリーとはまるで樹の枝のように多岐に広がっている魔法や武器のスキル強化システムで、魔法や武器をより専門的に扱うために自身本来のステータスとは別に強化することができるのだ。また新しい上位互換のスキル、称号もこのツリーのどこかに隠れていることもある。ただし、全てを強化しきるには時間がかかる。そのため冒険者達は自分の戦い方に合わせてこのツリーを広げていくのだ。


このスキルや自身のステータスHP、MP、物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、そして各属性への耐性。これらを強化するにはスキルポイントを振らないといけない。


そしてスキルポイントを手に入れるには魔物を倒して経験値を稼ぎレベルアップしなければならないのだ。


マリーにはそれができなかった。


前衛にアインとジャックがいるのに、

同じ後衛としてナターシャとサラがいるのに、時にはダントンさんとムートンさんがついてきてくれたのに。


ひたすら怖くて震え、まともに魔物を倒すことができなかった。他の四人に経験値を奪われっぱなしだった。


その結果、5人で冒険者を初めてから一年後、

他の四人はレベル15に達していたのに対してマリーはなんと魔物を一匹も殺せずレベル1のままだった。


そして四人はF級からE級に上がり、その半年後にはレベル25に上がり、ハリムの冒険者ギルドの認可で特別にD級に昇格。そしてもうすぐC級への昇級試験を受けに王都に行くのだ。街のみんなはB級ぐらいまで行くんじゃないかと噂している。


一年かけてレベル10に達すれば初心者冒険者としては上々。レベル10に達すれば訓練生クラスであるF級から、戦闘クエストの単独受領が許可されるE級への昇級がなされることでようやく冒険者としてスタートをきれる。レベル30になればD級に昇級して、準初心者、ルーキーの扱い。そしてC級になればある程度認められた冒険者という扱いだ。


D級以降はレベルの条件はなくなり、冒険者として働き、いかにギルドから評価を受けるか、そしてギルドが課す昇級試験に挑み合格することで昇級は決まる。だが、レベルは30以降で少し上がりづらくなる。そして、相手にする魔物も一段と強くなるのでベテランの冒険者でもC級に留まることが多い。


そして、ダントンさんやムートンさんみたいに地方の田舎で雑魚な魔物と新人を相手に過ごす冒険者も少なくない。


アイン達が普通の冒険者達と比べたら早い成長と出世をしてまさにヒーローのように周りから見られているのに対し、私が冒険者の恥晒しのように見られるのは当然だろう。だから一年経った時にパーティーを抜けた。


どうしても怖かった。みんなと一緒にいるのに、頼れる先輩もいるのに。なぜだろう?魔物に犯されたり、故郷を焼かれたりしてトラウマを植え付けられたわけでもないのに。訓練の時にはちゃんと火弾を的に当てれるのに。当てたら倒せるはずなのに。震えが止まらなかった。そしてそんな自分を周りは臆病者と見つめ罵る言葉も怖かった。恐怖の正体がわからないのも怖かった。 


そして、優しい子だからと慰めるつもりでかけてくれる言葉は悔しかった。他の四人が活躍しているのも悔しかった。


そして、嫉妬する自分に絶望した。



教会を出てからギルドに報告をした。例の黒いバッジも鑑定所で鑑定してもらったけど、何も分からなかった。鑑定をかけたのに、ゴミなのかさえ、"わからなかったのだ"。ギルドの鑑定士は少し興味を持っていた。王都からより精度の高い鑑定機を持ってくるつもりのようだ。

一体この黒いバッジもどきは何なんだろ?


昼の訓練まで時間があるから外出し、公園のベンチに座る。いつの昼もハリムの公園には子供たちで賑やかだ。


バッジを見ているとあのリビングアーマーを倒した時を思い出す。そういえばと思い、自分のステータスを確認した。



マリー・アスタ


レベル5


種族 人間


称号 魔法使い —————


・・・・・・・・・・ん???????



待って???



レベル5???


何度も見てもレベル5とある。自分の目を疑った。そしてよくみると称号の欄に謎の横棒がある。なにこれ?


リビングアーマーを倒そうとしてMPを確認した時、レベルはまだ1だった。レベル2になるためにはゴブリンでざっと50体は倒さないといけない。レベル5なんてゴブリンで換算したらきりがない。


つまりあのリビングアーマーを倒しただけで一気にレベル5に上がったと言うことだ。


信じられないが嘘ではない。


スキルポイントを確認するとレベルが上がった分のポイントが溜まっていた。早速!っ・・と行きたいところだが、ここは一旦落ち着く。スキルを振り分けた後で、その振り分けをやり直すとなると教会で恐ろしい額を払わないといけないからだ。


昼からある訓練で試すとしてまずは自分の戦い方をイメージする。ギルドの教官や先輩のアドバイス、今までの経験・・・あれ?


どうしてもあのリビングアーマーの戦い方が頭から離れない。アドバイスや経験を押し飛ばしてあの戦い方が脳裏に焼き付いて離れない。

戦闘スタイル自体全然違うのに・・・


・・・・・・・・・・・・・


仕方がないからあの戦い方を客観的に見つめてみた。


・・・・・・・・


そうか。あの戦い方は・・・・・

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