第七話 洞窟を抜けて

死んだ後なのに目覚めが良い。不思議だ。


自分を焼いた炎が思っていた以上に弱かったのが原因か?


いや、心地いいのは今であるからそれは関係ないか。


何だろ・・・本当に凄く心地が・・・・・・


寝起きからしっかり視界が開けると目の前にエリカ様がいた。俺から見たエリカ様の位置からもしやと考える。そして今まで見たエリカ様の服装を思い出す。


間違いない。俺は女神様の生足で膝枕されているのだ。


自分を焼き殺したた炎より遥かに熱い何かが俺の中で燃えた。


いや萌えたのかもしれない。


そして野田さんへの罪悪感で鎮火された。


何を言っているのかわからないだろうが、とりあえず一旦したら落ち着いた。


『なぁぁぁにやってんですか?!?!?!エリカ様!!!女神としてそれやっていいことなの??というかこんなアンデッドなんかよりすべき人間が他にいるでしょ!!!いや、違うな。そもそもやっちゃいけなかったんだよこんなこと!!!』


『・・・反応が童貞すぎて逆に笑えないわね。転生前はちょうど思春期だったのかしら?』


言うな言うな。なんか虚しくなるから言わないで。


『そういえば、俺いつまでああなってたんですか?』


『そうね・・・死んでから鎧ができるまで5分。そしてそこから目を覚ますまで5分ね。


なるほど5分か。5分くらいなら・・・って何考えてんだ?俺。


『そうだ、あの子は?』


『無事他の冒険者に助けられたわよ。でもあの子ね・・・ふふっ』


『ん?どうしたの?』


『いや、まさか自分が倒した魔物がダンジョンの主だなんて全く想像してないだろうからねぇ。レベルの上がり方見たら腰抜かすわよたぶん。』


『え、そんなに経験値あるの?俺。』


『この世界で経験値はどう決まるのかって言ったらそれは魂の強さでね。レベルを指標にした肉体的強さもある程度影響するけど、やはり魂の強さの方が大きいわ。レベル1の人間とゴブリンで魂を比べると遥かに人間の魂の方が強い。つまり人間の方が経験値も多いの。そして、あなたは他の世界から来た転生者。ダンジョンの主であることで発生する経験値ボーナスなんて眉唾レベルになってしまうくらいの強い魂を持ってるのよ。』


『すげぇな。それがほぼ無限に湧くから冒険者にとっては経験値稼ぎまくれる魔物ってわけか俺は』


冷静に考えると寒気がする。RPGの経験値ががっぽりもらえるレアモンスター達の気持ちが今ならよくわかる。


『さて、あなたがリスポーンするまで私ここで待ってたんだから、早く外に出てマッピングを終えましょう。』


『あぁ、そうですね。わざわざ待ってくれてありがとう。エリカ様。』


『・・・・あなたが私に自由な口調でいいって言ったのに何であなたは私に様ってつけるのよ。』


???確かにそうだ。神様相手にうっかり様付けで呼んでいた。


『あなたと私はこれから大切な仕事をするパートナーなの!だからあなたも私に様をつけない!いいね?』


『・・・そうさせてもらいますよ。・・・エリカ』


やはり恥ずかしくて死にたくなった。


洞窟の出口まで後少しだ。移動中ににエリカは

思い出したようにアツキに尋ねる。


『そういえば、ゴブリン3匹にどうやって戦ったの?個体差でいえばリビングアーマーの方が強いけど、3体も揃うと向こうの方が有利だったはずよ。よくあそこまでやれたと思うわ。リビングアーマーとしての戦い方はわかったの?』


『まぁ大体はですけど。ゴブリンも自分達が有利だとわかっていたから油断してくれていたんでしょうし。それにリビングアーマーとゴブリン達の差は明確ですからね』


『へぇ〜。じゃあその差というものをこの移動中にご教示願おうかしら?』


『(笑)喜んで』


ゴブリンとリビングアーマーを三つの点で比較しよう。


まずは力。これは圧倒的にリビングアーマーが有利だ。今回の場合、前田アツキが転生者であり、ダンジョンの主であったのもあるがそれを除いても下級兵士級リビングアーマーならゴブリンを殴り続けたら3発で殺せる。


次に防御力。これもリビングアーマーが有利だ。ゴブリンの粗末な武器の攻撃ではリビングアーマーに傷をつけるのは困難だ。


ただ、知恵のあるゴブリンは鎧の柔らかい所を集中的に攻撃する。これによって穴を開けて、魔力漏れを起こせば倒せないこともない。


そして最後に素早さ。これは流石にゴブリンが上手だ。リビングアーマーであるから鎧による関節の可動の制限はほとんどないが、やはり鎧は重いので動きは鈍い。


ゴブリンは身軽で素早いので追いかけっこで追いつくことは不可能。大振りのリビングアーマーの攻撃は避けられやすく、逆にゴブリンの攻撃はリビングアーマーに当たりやすい(それでダメージが入るかは別)。


ここでさらに二つの点で比較しよう。


一つはリーチ。これは明らかにリビングアーマーが有利だ。もう一つは数。これはゴブリンがほぼ常に有利だ。


つまり、それぞれ有利な点と不利な点がある。


この場合。リビングアーマーが勝つにはどうすれば良いか。ゴブリンが勝つにはどうすればいいかを考える。


ゴブリンが勝つには、

まず、敵を包囲して、同時に攻撃を仕掛ける。

そしてその素早さで一撃離脱を繰り返す。

こうして、相手に地道にダメージを与え消耗させる持久戦に持ち込むのだ。


常に群れで戦うゴブリンの常套手段だろう。今回3匹目が油断して戦闘に遅れたのはゴブリン側にとってかなりの痛手であったと思う。


では、リビングアーマーはどうすれば勝てるのか?


まず、ゴブリン側の勝つための作戦を阻止するために集団で連携される前にゴブリン達を掻き乱す。そして孤立した1匹1匹を各個撃破していくのだ。


ただ、撃破する際に問題が生じる。素早さがゴブリンに劣る騎士ではゴブリンに攻撃を当てづらいのだ。


リビングアーマーがゴブリンに確実に攻撃を当てれるタイミング。


それは向こうがこちらの間合いに入ってくる時だ。それを"できるだけ体の正面で捉え"、リーチの差を活かし、相手の攻撃が届く前に叩く。

また、ゴブリンが頭を狙おうと空中を飛んでいる時も攻撃を当てやすい。流石のゴブリンでも空中で攻撃を回避する能力は持ってないからだ。


つまり、前田アツキが殺した2匹目のゴブリン。正面に空中のゴブリンを捉えて叩く。あれこそがリビングアーマーが最もゴブリンを殺しやすい状況だった。


騎士自体、動きが遅いのは仕方ないなことだ。だから常に敵を自分の間合いに引き寄せてから叩くそれが騎士の戦い方だと彼は知っていた(もちろんゲームとアニメで)。


ただ、ここで"できるだけ体の正面で捉える"と補足したのはそうしなければ彼のような初心者が剣を振いゴブリンを倒せないと考えていたためだ。ほぼ視覚外から襲ってくるゴブリンを捉えて剣で対処しきれるなんて思ってもなかったわけだし。


もちろん、ゴブリン達もあの2匹目のように正面から敵に挑もうとはしない。


敵を囲んでから同時に仕掛けるとしても必ず敵の視覚内に囮を視覚外に本命を用意するはず。

だからあの時の2匹のゴブリンは左右に分かれて俺を両側面から挟んで囲むつもりだったんだろう。


仮にそうなったとしても、アツキは背後のゴブリンが例え背中にくっついて攻撃してきたとしても根性で耐えて無視するか、何とか捌いて、囮のつもりで飛んできたゴブリンをぶっ殺すつもりでいた。


ただ、それで本当に耐えれるのか、捌き切れるのか不安要素があった。


だから2対1の状況を作らないように壁に近くて追いつきやすい方のゴブリンを追いかけた。

ただ、もし無視した方のゴブリンが後ろから襲ってきたらすぐ振り返ってそっちを確実に対処すると決めていた。事実逃げていた方のゴブリンは逃げることに必死だったから実質一対一に持ち込めているのだ。


正直に言うと俺自身追いかけっこに少し夢中になっていたけど。


さて、ようやく洞窟の外に出た。もう暗くなっている。


『お〜〜。外はこんな感じなんだ〜〜。あ、森の向こうに街が見えるよ!!』


『まぁまぁ大きい街でよかったわ。あれなら"お客さん"も期待できそうね。・・・?!!!』


突然エリカがダンジョンコアの地図に釘付けになる。


『・・・・やっぱり訂正するわ。数はいても質の悪い客かもしれないわ』


そう言って俺に洞窟の外の周りを読み取ったばかりの地図を見せる。


うん。さっきと同じ赤い点でいっぱいだ。夜だからという理由で説明できない程の。場所はこの洞窟より街から離れたところ一帯だ。振り返ると街の方と同じように森が広がっている。この洞窟がある所はどうやら少し山になっているようだ。


『ここからでも街まで少し距離があるけど、それでも街からこの距離にこの数の魔物がいることは異常なのよ。つい最近多発したのか。あの街の冒険者や兵士、役人達が仕事をしてない証拠ね。うわ、これしかも全部ゴブリンじゃん。放っておいたら大惨事ね』


うん、あの街への第一印象は最悪なものになった。少なくともエリカにとっては。


『なら折角外に出たんだし、彼らに恩を売るために"サービス"をしてあげませんか?』


とわざと俺は悪い顔をする。


『・・・やってもいいけど今日はもう疲れたわ・・・』


『あと何時間動けるの?』


『そうね・・・。あと8時間ってところかしら?』


『なら行きと帰りでそれぞれ1時間と見積もって暴れられるのは6時間か』


『何それ遠足かよ(笑)』


『そういえばさ。ダンジョンコアの祭りの神様にとって、ゴブリンの虐殺ショーは"賑わい"になるのかな?』


我ながらサイコパスなことを言う。


『・・・・ほぼ悲鳴しか聞こえないだろうからね・・・あ、そうだ』


『あなたの眷属を召喚してそいつに殺させればダンジョンコアにポイントも貯まるし、あなたの経験値にもなるわよ』


この女も大概サイコパスなのかもしれない。


ダンジョンに召喚される魔物はレベルを固定され、レベルアップもしないし、ダンジョンに挑戦しにきた冒険者を殺すか殺さないかも設定できる。


神のダンジョンでは殺しが禁じられており、魔物が殺した場合は経験値の代わりにダンジョンコアにポイントとして加算されるがそのポイントのほとんどが死んだ冒険者の蘇生に当てられる。それでダンジョンポイントを地道に稼ぐこともできるようだが、スズメの涙だ。


ただ、生死をかけた試練を作るためにあえて冒険者の蘇生させるシステムを導入し、魔物達に冒険者を殺すように設定しているダンジョンがほとんどだ。


今回エリカが思いついたこの案は、まだダンジョンコアを設置してないからこそできる裏技であるのだ。


『でも、眷属っていってもリビングアーマー以外のやつを召喚するの?』


『残念だけど、前に挙げた3体の初級魔物(スライム、ゴブリン、コウモリ)よりも眷属効果でコストダウンした下級リビングアーマーの方がコストは安いのよ。』


『コストダウンの効果すごいな。でもダンジョンのポイント貯まってないでしょう?』


そういうとエリカはダンジョンコアにニヤついた顔を隠す。


『ところがどっこ〜〜い。あなたがあの女の子に倒されたおかげでポイントが貯まりました〜〜〜♪』


えらい上機嫌だ。このままだとキャラが崩壊するぞ。


『まず、あの子があなたを攻撃したおかげでダンジョンコアがあの子をうちのダンジョンへの初めての挑戦者として認定したわけ。そしてあなたが倒されたおかげで初のダンジョン攻略が達成されたの!これってすごいめでたいことじゃん?だからダンジョンコアから報酬としてダンジョンポイントを貰ったの。そしてそれを早速ダンジョンの規模拡張に使ったけど、まだ残りがあるの。これでリビングアーマーを召喚できるわ』


『え、まじで初日で早速召喚できるのか。何体出せるの?』


『えーとそうね・・・。とりあえず三体出そうかしら』


『わーい!分隊(スクワッド)組めるじゃん!!!やったーー!!』


『ほんと子供みたいで幼稚ねあなた。』


そして一息ついてから、


『・・・・・・。さてさて・・・早速召喚するわよ〜〜私達のダンジョンの魔物第1号から第3号!!!!』


人(アツキ)に言っておいて自分(エリカ)はこれである。


そして、エリカがダンジョンコアを左手に浮かべ、右手を地面にかざす。ダンジョンコアが光り少し分解、展開したあと、それぞれのパーツが独自の回転を始める。そして、地面には魔法陣が3つ現れた。


そしてついに、ついにそこから3体の初級兵士級のリビングアーマーが現れるのだった。


アツキとエリカは同時に歓喜の声をあげてはしゃぐ。両方ともやはり子供であった。


先も述べたようにダンジョンで召喚されたリビングアーマー達は戦うことしか頭にない。その戦いも戦の神に仕込まれたもので、単純で成長のない戦闘データそのものだ。そんな彼らが自分達の召喚主達を見て、何かをするわけもなく何もせずただせずに見つめているだけだった。


まぁ、そうされると空気が冷めますがな。


とりあえず前田アツキは三体のリビングアーマー達を近くで吟味する。


鎧はまだ実戦で使ったことのない新品で光っている。これからその新品の鎧を血と泥で汚していくことを想像するだけでかっこいい。最高の気分だ。


『よしピカピカ組の諸君、お前達には後で肩にナンバリングつけてやるから楽しみにしておけよ!それじゃあ、ゴブリン狩りに出発!分隊進め!!』


リアクションは全くないのだが、どうやら眷属として俺についてくるようだ。こんな兵士たちを引き連れるなんて本当に最高の気分だった。


そしてエリカが姿を現すことができる間、アツキ隊長含め計4人の分隊は何度かリスポーンをしながらゴブリン達を虐殺して行ったのだった。

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