第四話 ファーストブラッド、そして灰へ

さて、これまでずっと立ち話を延々としていたアツキとエリカがようやく歩き出した。いや、本当に長い立ち話だった。


二人が緩い下り坂を進んでいくと、途中からだんだん上り坂になってきた。エリカの予想は的中したようだ。アツキはるんるんになって歩くテンポを上げるが、エリカはダンジョンコアと睨めっこをしながらどんどん歩くテンポが下がっていく。ダンジョンコアにどんどん洞窟のマッピング情報が写され始めてはいるが、どうやらこの道は1本道らしく、ダンジョンをつくろうとする彼女には都合が悪いらしい。


それからまた少しして、二人はほぼ同時に足を止めた。アツキは足元に見たことない足跡をみつけ、そしてエリカはダンジョンコアの地図に赤い点が複数映し出されたのに気づいた。そして二人は同時に言い放つ。


『あ?なんじゃこれ』


エリカは赤い点を拡大しながら、横に別のパネルを開く。どうやらマニュアルのようだ。そんなエリカをよそにアツキは足元の足跡と睨めっこをしたのち、無性に武器が欲しくなった。そして、腰を見てみるとちゃんと剣が鞘にささっていた。なんで気が付かなかったんだろ?

とりあえず抜いてみる。伝説の剣のような特別な剣ではないのがよくわかる。普通の剣だ。錆びてないだけマシだと思うし、刃もちょうどいい長さでそこまで重くはない。扱いやすそうだ。


『あー、なるほど。この洞窟に巣食う天然のゴブリンね。3匹いるわ。あと・・・あ、人・・人間が一人いるわ。結構弱ってるみたいね。まずいかしら?』


『よし、初陣飾ってきますね。できれば援護が欲しいです。』


『あー悪いけど援護はできないわ。私達神様ってこうやって姿を現すのに、ましては魔法を展開するとなるとさらに膨大な魔力を消耗しちゃうの。まだやることが沢山あるし、これ以上魔力は浪費したくないのよね。だから一人で頑張って〜』


『なるほど。俺に無駄弾ぶつけてなければ援護できたかもしれないのか』


『(ギクッ!!!)・・・あぁ、あとダンジョンコアに洞窟の情報を入れるためにはゆっくり移動しないといけないから先行ってて〜。不安だろうけど大丈夫よ。あなたは転生者で私のダンジョンの主なんだからさ。それにダンジョンコアの近くにいればリスポーンもできるし。ビビらずにファイト〜』


うん、完全におちょくってやがるな。まぁそんなの気にしてられなかった。人が一人危険な状況にあると聞いて正直かなり不安になっていたからだ。とりあえずエリカを置いて、走ってゴブリン達の所へ向かった。


洞窟の通路を走っていると、さっき俺たちがいた所よりも広い空間に出た。そして俺が今いる所の向かい側に穴が空いていて道が続いている。


そしてそこにゴブリン達もいた。


ちゃんと3匹いるし、後ろに人がいるのも見える。よくみると若い女の子だ。だいぶ痛めつけられボロボロだが、息はありそうだ。それがわかったのは、ゴブリン共がまさにこれからその子で遊ぼうとせんばかりに汚いニヤケづらを晒していたからだ。


大体想像がつく。


そして通り魔に対して抱いたのと同じ不快感で体が包まれる。


"""よし、殺そう"""


殺せるかわからないが。殺すしかない。殺さないといけない。殺さないと気が済まない。気持ちは整えた。エリカ様のいう通りなら最低限の力もあるはず。問題はそれを使いこなせるかの技量だ。まぁある程度作戦は考えた。あとは実行に移す段階で臨機応変に行こう。


まずはゆっくり歩いてゴブリン共に近づく。部屋の真ん中近くの所でゴブリン共がこちらに気づく。俺は歩きながら挑発のつもりで剣の先をゴブリン共に向けてみる。3匹中2匹がこちらに近づいてきた。女の子の保護のために3匹とも来て欲しかったが2匹なら2匹で各個撃破しやすくなったからそれはそれで結構だ。


とりあえず前に進んできたゴブリン2匹に集中する。2匹は小柄な身にちょうど似合う小さなナイフを構える。粗末なナイフだ。あれくらいならこの鎧でも耐えれると目星がつく。


さらに互いに距離を詰めるまで静寂が続いた。そして俺の剣だとギリギリ届かない間合いで2匹のゴブリンは左右に分かれながら一気にこちらに距離を詰めてきた。


俺はまず、右のゴブリンに狙いを定める。左のゴブリンはほぼ無視だ。右のゴブリンに向かって走り剣を構える。狙われたゴブリンは驚いたように走るコースを変えて俺から距離を取ろうとする。

なぜ右側を狙ったのかって?答えは単純。右側の方がこの広い部屋の壁に近かったからだ。壁が近づき逃げるゴブリンは速度を少しだけ緩め、壁に沿って走ろうとする。洞窟の壁は円の部屋を作るように内側に曲がっている。ゴブリンが必死で円周上の壁に沿って走り出そうとした時。俺はその進路上に先回りした。内側に曲がった壁に沿って走ってもらえれば、先回りはしやすい。それにゴブリンも逃げるのに必死だったようで、走る先に俺が立っていることに気づくのが遅れた。


俺はゴブリンをボールに見立てて、剣をバットのように構えた。こちらは動かなくていい。もう多少スピードを緩め始めても向こうがこっちの間合いに入ってくれるのだ。もちろん、野球のみたいにゴブリンを上に打ち上げるように剣を振るつもりはない。斜め上から斜め下に叩き切る。そのつもりだった。


これまで放置していた方のゴブリンが何もしてないはずがなかった。相方のゴブリンにしか目を向けず、追いついたと思ったら自分に対して背を向けているので好機といわんばかりに飛びかかってきたのだ。


まぁわかってた。ただもっと早くくると思ってた。飛びかかる前に気づき、顔だけ振り返ると空中で俺に粗末なナイフを向けるゴブリンがいた。


この体制から剣を振って切れる自信がなかったので試したかったことをした。

バットを持つように構えていた剣を左手に持ち替える。顔だけ振り向いた時にゴブリンのおおよそ飛んでくる軌道に目星をつける。そしてそれに合わせて左腕を大きく振り剣の柄頭(剣の持ち手の下の膨らんだ部分)でぶん殴った。


とりあえず横腹に当てれた。当てた後で切るなり刺すなりいけたような気がして少し後悔した。横腹を柄頭で殴られたゴブリンは悶絶していた。


リアルな騎士のゲームを見ていて知ったことがある。西洋の剣の持ち手の部分は立派な鈍器になるということだ。さっき使った柄頭は相手を殴打するのに使えること、刀身の根元にある鍔は眼球や鎧の隙間など柔らかい所を抉ることができると知った。正直リアル重視と言ってもゲームだからどこまで当てになるかはわからなかったけど、やってみるもんだ。


早速1匹といきたかったが、そうはいかなかった。


さっきまで逃げていたゴブリンが自分が狙いから外れたと知った途端こちらに牙を向けてくる。逃げていた時のスピードのままくるのだから流石に対応に遅れ、右足首を切られた。ふらついて右膝を床につける。切られた所を見ると装甲の薄い所を狙われたのがわかる。まだ動けるが切られた所から黒い煙が出てそこから少しずつ力が抜けているのがわかった。魔力でも抜けているのだろう。


そう思っているうちにさっきの一匹が近づいてくる。そして3匹目も慌てて近づいてくるのに気づいた。てっきり後衛でパチンコでも打ってくるのかと思った。まぁ弓のようなたいそうな射撃武器は見えなかったから遠距離攻撃に関しては気にも止めていなかったけど。


とりあえず・・・・・・目の前の瀕死のゴブリンにとどめをさした。


頭を左足で思いっきり踏んづけて潰した。


思ってた以上に潰れてびっくりする。これ片手でも捻り潰せたりするのかな?俺が強いのか向こうが柔らかいのかどっちなのかわからなくなる。


そう考えてるうちに目の前にさっきのゴブリンが飛びかかってくる。顔から見るに相当頭にきているようだ。


はいご苦労様。


右手で剣を握り、左手を刀身に添えてゴブリンに狙いをつけて右足を一旦後ろに下げてから一気に前に踏み出す。それと同時に右手と剣をゴブリンに向けて突き出しその胸を貫いた。


ただ、タイミングが遅く、貫けたのはよかった完全にが突き出しきる前に刺さってしまった。そしてまだ添えていた左手がゴブリンを掴めそうだったのでゴブリンを掴んでさらに深く貫く。いちいち汚い悲鳴を聞いている暇はなく、後ろから3匹目が飛びかかってきた。


振り返ると同時に左手に掴んである剣に刺されたままのゴブリンを引きちぎりながらぶん投げた。どうちぎれたのかもわからないほど無惨なゴブリンの死骸から血や臓物が溢れ出る。死骸自体は3匹目のゴブリンには当たらなかったが、飛び散った臓物が顔に当たりちょうど目潰しになったようだ。


ゴブリンは飛びかかる途中で転げ落ちて視界を確保しようと必死で目をこする。だが、ドロドロとした血と体液はなかなか取れず。目の奥に入った臓物が激痛を引き起こしているようだ。ブルブルと震えなんとも哀れな姿だ。だが、それを悠長に見ていられるほどこっちも余裕があるわけではない。


とりあえず殴ったし、踏んだし、刺したから、斬ろうと思った。両手で剣を振り上げる。ゴブリン自体が小さいので振りかぶる直前に両膝をついて剣を力任せに叩きつけた。見事に全身真っ二つだ。だがやはり地面に当たっている。無駄に硬いものに剣を当てると痛めてしまうからやはり振り方には気をつけないと。


そう思いながら周りを見るとあの女の子が目を覚まし、座っていた。よかったと思って近づいて見ると彼女の顔がどんどん青ざめているのに気づいた。あの様子だと結構前から起きていて、俺のゴブリン惨殺現場を目撃していたようだ。


改めて自分の体を見ていると。まぁ血だらけ臓物だらけ。ゴブリンのものであるせいかさらに臭い。まぁこんなリビングアーマーに関わりたくはないよね。と思いつつもやっぱり彼女をほっておけなかった。


『大丈夫か?安心して、俺は敵じゃないよ。』


あれ?反応が薄いな?いや俺の言葉に反応してないなあれは。


あっれれ?おかしいぞ。


俺喋ったよね。少なくともそう話そうと"思った"よね?


ん?なんだいその木の棒は?

それで俺をぶん殴るつもりかな?変な抵抗はやめた方が・・・・


わぁ、燃えてる。ありゃ火の玉だ。

あれは魔法の杖でこの子は魔法使いか。なるほどねぇ。


いや、待て待てなんでそれを俺に向けるんだい?

ほら剣も捨てたよ。ねぇ勘弁してくれよ。


流石にエリカ様もう近くにいるよね?いないと俺もう死んじゃうことになるよ。まじで洒落にならないんだけど。


『安心して。あなたはもうダンジョンコアの範囲に入ってるわ。』


あ、よかった〜。っていたんかい!いつからいたんだか全くもう。


『ついさっき来たわよ。ゴブリン討伐お疲れ様。それと一つだけ聞いておくわ。あなた、何今まで普通に会話できていたと錯覚しているの?』


え?俺ちゃんとエリカ様と話していたよね?


『そうだけど・・・今この距離で話せるのっておかしいと思わない?』


え、じゃあ・・・今までのはなんだったの?


『念話よ念話。あなたのリビングアーマーのコアに魔力波を直接発することで会話ができていたの。低級魔物であるあなたの魔力波じゃ人間と念話するには弱すぎるのよ。私達神様や精霊職の人間なら弱い魔力波でも拾って念話ができるけどね』


え、・・・・・・・・・


そう思ってる間に火の玉が飛んでくる。そうだと思ってステータスを開いてHP(ヒットポイント)を確認する。体力は右足首を切られたのとその後の魔力漏れによる継続ダメージで残り三分一になっていた。耐えれるかなと思いきや、ステータスを見ると自分の魔法防御力略して魔防が1なのに気づいて察する。


終わったわ。


誰のせいでもないし、どうしようもない仕方のないことなんだろうけど、初めての討伐のされ方がまさかこんな形になるなんてと思い、死の間際こう叫んだ


"""""""何やってんだゼラァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!"""""""""""


そして俺は黒炭になった。


よわ・・・優しい炎だったことだけが唯一の救いだった。


彼女に一言


おめでとう君が初めてのダンジョンの主の討伐者だ。

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