第三話 訂正やっぱり辛いかも

彼女の口調は、ダンジョンの話になってからまた変わった気がする。仕事熱心、な感じだが自分の好きなことを話している楽しさが時々垣間見える。ただ、この後話される内容は正直笑えなかった。


『リビングアーマーの件ですか?』


『そう、リビングアーマーの説明はステータスで見たから大丈夫ね。あとはもう少し種族としての説明をしとかないと』


そう言ってダンジョンコアの球体から大きな光るスクリーン版を出す。どうやら召喚できる魔物の一覧表のようだ。エリカがコアの表面を指でスライドさせると表示される魔物の数が大きく減った。よくみるとみんないかつい鎧を着ている。みんなリビングアーマーのようだ。


『これがダンジョンで召喚できるリビングアーマーになるわね』


『ウヒョーーかっこいいなぁ。えーと1、2、3、・・・・・・あれ?12種??少なくない??』


『そう、リビングアーマーは種としての数が少ないのよ。下級、中級、上級、の区分の中にそれぞれ兵士(ソルジャー)級、隊長(キャプテン)級、指揮官(コマンダー)級がいて、その上のボスクラスに将軍(ジェネラル)級、騎士王級、姫騎士級がいるわ』


『まじか・・・しかも、下級のソルジャーからコマンダーまでみんなほぼ同じデザイン(肩や兜に色がついてるかついてないか)じゃん・・・。あ、中級と上級もそれぞれ同じ感じか』


『そうね。わざわざ兵士と隊長と指揮官で鎧のデザインを変える必要がなかったんでしょうね。まぁ武器装備はそれぞれ結構幅広く変えれるみたいだから、それで我慢してね』


『え、まじで最高じゃん。むしろこの統一感出たアーマーでそれやるとまじで最高だよ』


『はいはい。とりあえずここでリビングアーマーが神々のダンジョンで最も不人気な理由をバンバン挙げていくからね』


『嘘だ!!なぜ最も不人気なんだ!!おかしいですよエリカ様!!』


『はい、まず一つ目の理由はめんどくさいからです。リビングアーマーは硬くて少し倒しづらい魔物ですが、それくらいは寛容に受け止めるとして。ただ、一番の厄介な点はその数です。集団で殴りにこられるのが本当にめんどくさい。そして隊長級や指揮官級がいると兵士級達にバフをかけてくるのでさらに厄介。ボスクラスの将軍級や騎士王、姫騎士達との戦いは確かにやりごたえがあり、ドロップアイテムも魅力的だけど護衛といわんばかりに上級兵士級どころか隊長級や指揮官級までもが湯水のように出てくる。というわけで、リビングアーマーを見かけたらみんな戦うのをめんどくさがって逃げちゃうそうです』


『いや、戦争の本質ついてるじゃん。それ倒すのめんどくさがってるようじゃ実際の戦争で生きていける気がしないんだけど』


『ちなみにですが、とある大国の軍隊の実戦経験豊富なことで有名な精鋭部隊がリビングアーマーのダンジョンを攻略しようとした時は中級リビングアーマーの軍団の時点で半壊して、なんとか残りのメンバーで最後の騎士王級のところまで辿り着けたけれど、周りの上級リビングアーマー達を見て泣いて逃げ出したことは有名よ。その精鋭部隊がどれだけすごいかっていうと、当時の勇者と共に魔王城に突入して勇者パーティー共々全員生還するほどよ』


俺が一言挟もうとした隙にエリカが追い討ちをかける。


『二つ目はアイテムがしょぼいから。リビングアーマーは基本鉄しか落とさない。というかそれしか落とすものがないからね。上級や将軍級以上になると魔石とかいい素材を落とすようになるけど、下級の兵士から指揮官級までは小さい祖鉄の塊、中級の兵士から指揮官級までら中くらいの鉄の塊しか落とさない。スライムの落とすスライムゼリーの方がまだ価値がある始末だしね』


・・・・・・・・


『お分かりかしら?リビングアーマーって戦い方自体ウザいし、そして倒しても割に合わないの。そんなリビングアーマーをうちのダンジョンにウジャウジャさせてみて・・・・速攻潰れるわよこのダンジョン』


『な、なら宝箱の・・』


『宝箱のお宝ね、それもダメよ。ダンジョン内の宝箱の中のアイテムってどう生成されるか知ってる?基本アイテムはダンジョン内に生息する魔物が落とす素材を複合してダンジョンコアがランダムに使って作るのよね。つまりリビングアーマーだけしかいないダンジョンのお宝はほぼリビングアーマーの装備ぐらいしかないってことに・・・・・・』


『ファーーーーー!!!!!???』


流石に萎えた。転生して俺個人が戦ってなんとかすればいいと思ってたらダンジョン運営という経営ゲームという時点で詰んでた。どうするのさこれ。


こんな状態の俺をガン無視して彼女は話を進める。


『お金や宝石を宝箱に入れるには、富を司る神の承認とその分身をダンジョンコアにインストールしないといけないし。もちろんそれするのにもコストがかかるからね』


『ん?神様の分身をインストール?』


『そう、このダンジョンコアは様々な神様の力を模した分身の集まりでできてるの。さっき話したダンジョンの賑わいがダンジョン運営にとっての利益になるのは祭りを司る神の力のおかげ。宝箱の中アイテムを生成する力は創造の神の力、ダンジョン内の魔物の召喚、リスポーンは生命と輪廻転生を司る神の力。色々な神様よ力のおかげで神ダンジョンはダンジョンとして運営できているの』


『なるほど・・・すごいけどそのダンジョンコアってかなりヤベェやつじゃん』


『その通り、だからダンジョンの管理を任された神である私とダンジョンの主であるあなたにはこれを守る義務があるの。責任重大よ』


『あと、八方塞がりな顔してるあなたに朗報よ。唯一の解決策があるわ』


『?!それは一体なんでしょうか?』


『外に行って野生の天然リビングアーマーを捕まえてきなさい。同じリビングアーマーであるあなたなら眷属にできるはずよ。ダンジョンのリビングアーマーより一癖二癖あるし、ドロップするアイテムも変わるはず。これはあなたが転生者であってダンジョンの外にも出られるし、進化するであろうから言えることだけどね』


『あ、俺進化できるの?』


『魔物に転生した人は基本その上位の魔物に進化できるはずよ。期待しているわ』


『そういえば、気になることがあるな。ダンジョンのリビングアーマーってどうやってできてるんだ?天然のリビングアーマーに一癖二癖あるってのはそれ・・・そこで人が死んだからアンデッド化してできたんでしょ?ダンジョンのリビングアーマーの場合。鎧はともかく魂はどこから持ってくるの?』


『あー、それね。ダンジョンのリビングアーマーの魂は輪廻転生を司る神が準備してくれるのよ。この世界で死んでから天に招かれて人格も薄れてなくなっちゃった魂を使うんだって。その魂に戦を司る神様が作るリビングアーマーに合わせて戦い方の情報を入れ込むの。これで冒険者と戦うだけしか脳のないダンジョンのリビングアーマーの完成ってわけ。ちなみに他のダンジョン産モンスターは一応人格はあるわ。長いことダンジョンで働いてた魔物が倒れた冒険者を出口に送り届けてくれたことが多々あるらしいし』


『さて、説明はこの辺にして移動しますか。開発以前にこの洞窟のマッピングをしないとね。あなたもついてきて』


うん、何もしてないのに疲れた。彼女の話は本当に長い。高校の先生達の授業よりは面白いから居眠りとかはしないけど、ある程度頭の中で整理できたけど、それはそれできついのだ。


『・・・・。よし、それじゃあ上に続いてそうなあそこの道から行こう』


俺たちが今いる場所は一つの子部屋みたいに少し広い空間だった。そして向かい合うように一つは上へもう一つは下へ向かってそうな道だった。


『ちょっと待った。少し時間をちょうだい』


そう言って彼女は右手を肩まであげる。時間をちょうだいと言った割にはそれはすぐに終わった。


『周りの空気の感じからして、私達まだそこまで深い所にいないみたいね。それに風が吹いてくる方向からして出口があるのは向こうの道の先のはずよ』


そう言って俺が行こうとした道の反対側の道を指差した。


『なるほど。確かに洞窟って外から空気が入ってくるもんな。てかエリカ様ってさっきの攻撃といい、もしかして風魔法がお得意なのですか?』


『・・・ええ、そうよ。というか風魔法しか使わないわ』


へー。神様ならもっと色んな魔法使うのかなぁなんて思ってた。まぁそんなもんなのかな?


『なるほどね。それじゃあ行きますか。』


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