第二章 ディストピアからの脱出 第六話 悪魔を大量召喚しよう
その日、音改と美由がナザリック地下大墳墓の円卓で荷物整理をしつつ、今日の狩りをどこに行こうかと相談していたところ、ウルベルトとモモンガが転移してきた。そして音改を見つけると、話しかけてくるのであった。
「音改さん。すまないが頼みがあるんだが」
「どうしました? ウルベルトさん、モモンガさん」
「これを見てくれないか?」
そういうと悪魔像に宝玉が三つの組み込まれたアイテムが円卓に置かれた。そのアイテム情報をみると伝説級のアイテムであり、効果は
「アーマゲドンイビル?」
「ええ」
第十位階魔法 アーマゲドン・イビルは、悪魔の軍勢を召喚するという魔法である。しかし大量に召喚されるものの、一体一体はそれほど強くはない。しかも無差別攻撃をするので、生贄系のスキルや魔法の前準備で使われることがおおい。しかもアーティファクト化で本来効果は弱くなるのだが、三つの宝玉で相乗効果もあって通常よりも大量に召喚でき、MP消費もない。
「なんでまたアーティファクトを?」
「先日発見されたワールドアイテムのアンラ・マンユを知っているか」
「ええ、一回だけ使われてワールド全体を悪魔が覆った……は言い過ぎですが、すさまじく広範囲に大量の黒閣下(野良悪魔で見た目が黒く豪華な見た目をしているため)が現れたらしいですね」
「それを作りたいとおもって、モモンガさんに協力依頼して作ったのがこれだ」
そういうとウルベルトは先ほどの悪魔像を指さす。
そこまで来て音改も美由も、得心がいったのだ。生産スキルはある程度代用できるがやはり高性能・高品質を目指すと、武器・防具であれば鍛冶師といったスミス系統が、アーティファクトであれば錬金術(アルケミスト)が必要となる。
「つまり、今以上の完成度のものを作りたいと」
「すまない。可能なら手をかしてほしい」
ウルベルトは頷き頭を下げる。
「いいですよ」
音改はOKのアイコンを表示させながら快諾するのだった。
しかしそれがデスマーチのスタートとは、その時考えていなかった。
***
ここで簡単にだがアイテム作成の流れはデータクリスタルと素材があれば、プレイヤーはだれでも作成できる。しかし、より高レベルの武器となると、それなりの生産スキルが必要となる。今回の場合は第十位階魔法アーマゲドン・イビルを封じた魔封じの水晶がベース素材になる。データクリスタルについては、以前より貯めていたそうなので足りそうだ。
しかし
「魔封じの水晶の数が足りないかもしれませんね」
「無理せずということであれば錬金術レベルはカンストしてますから七つまでの強化ならいけますけど……ただアーマゲドン・イビルx7とすればいいのか、他の魔法を組み合わせるか」
「たしかに」
そういうとモモンガとウルベルトは考え込んでしまう。
実際同じ魔法を七つ同時につかったとしても、そこそこのレベル悪魔が七倍の数召喚されるだけなので、魔法最強化や威力上昇、使用者の能力上昇など組み合わせるほうが結果的に強い可能性があるのだ。
「じゃあ、まずいまのアーマゲドン・イビルx3とアーマゲドン・イビル+魔法最強化+威力上昇を作って比較してみますか?」
「それで行ってみよう」
こうして悪魔とオーバーロード、天使と堕天使という種族的にユニークな編成で素材あつめをはじめるのだった。
***
二か月後
「やっと完成した」
四人で作成を始めて試作の検証をした結果、アーマゲドン・イビルx3、魔法最強化x3、威力上昇が最終的に強い悪魔を視界いっぱいに召喚できるとわかった。
問題はここからだった。
同じアーマゲドン・イビルの魔封じの水晶のはずなのに、召喚できる悪魔の数やベースの強さが違うことに気が付いてしまったのだ。
――そこから始まったのがいわゆる厳選作業
結局、ほぼ最大と思われる魔封じの水晶が三つできたのは、二か月後であった。正確には最初の二つは二週間で完成したのだが、最後の一つが成功しない。むしろ作れば作るほど弱くなるのではないか? という絶望感。
「いやー運営が物欲センサーの実装に成功しているとは、思い至りませんでした」
「いくら運営でもそれは無理だと……おもう」
モモンガとウルベルトの会話に頷く音改だが、こっそりソースコードを確認したのは秘密である。もちろん傾きが決められた乱数でしかなかったとだけ言っておこう。
「でも、これなら防衛装備にもできそうですね」
「だな。あとお礼だが、正直何か作るとかいうならいくらでも付き合うが?」
ウルベルトはそう提案するのだった。当初は一週間もかからず終わるぐらいの感覚だったのに実際は二か月。もちろんフルフルで参加してたわけではないとはいえ、ログイン時間の大部分を協力してくれたのだ。
そういうとモモンガは、試作のアイテムを持ち上げというのだった。
「じゃあ、これをいただきます」
「じゃあ私たちもこれにしますね」
続いて音改と美由も同じように試作アイテムを一つ手に取るのだった。しかしウルベルトは納得できなかったのだろう。
「いやいや。いくらなんでも労力に釣り合わない。恩には恩を。仇には仇を。どちらも等価であるべきだ」
「まあ、一緒に冒険して作り上げたって思い出があるんだからいいじゃないですか」
モモンガの返答にどうも納得はできないのだろう。まだ何か言いたそうにしていたので音改は付け加えるのだった。
「じゃあ、貸一つということで、いつかお願いするかもしれませんから」
「ではウルベルトさんがどうしてもというなら、私も貸一つで」
にこやかに続くモモンガの言葉に、ウルベルトも観念したのだろう。
「わかった貸一つで」
もっともこの時の貸一つがとんでもないタイミングで帰ってくるとは、貸した音改もかりたウルベルトも予想することはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます