第二章 ディストピアからの脱出 第五話 アインズ・ウール・ゴウンの外から
ギルド・アインズ・ウール・ゴウンが発足してしばらくの時間が経過した。メンバーも増え、ワールドアイテムもいくつも保有するようになった。ギルドランクも一桁が射程圏内となっていた頃、ギルド武器を作ることとなった。
「そろそろいい時期ですよね」
週末の夜、円卓に集まりギルドメンバーのほとんどが参加する中、そんな議案が提起されたのだ。実際 玉座の間に設置されている仮のギルド碑石が破壊されれば、このギルドホームは崩壊することとなる。強力なギルド武器とすることで、戦闘を有利にするだけでなく、万が一の時に移動することが可能となる利点もあるからだ。
そんな中、ペロロンチーノが手を挙げて質問してくる。
「モモンガさん。ぶっちゃけ、どのぐらい素材ストックあります?」
「金貨とデータクリスタルについては音改さんの商人スキルのおかげで、ぶっちゃけ
神話級アイテム十数本作製しても余裕ぐらいです。だけど素材は、作るものによりますが結構たりないですね」
「ギルド武器は基本モモンガさんが持つことになるんだろ? ってことは魔法系?」
「とりあえず、以前みなさんに募集したギルド武器案から選んで素材集めをしたいとおもいます」
ギルド共有のノートにまとめられたギルド武器案をみんなで見ていく。
「一番、刀型。属性宝玉全種を軸に……たけさん。自分の作りたい武器いれないでください」
「え? モモンガさんもこれを機にサムライになろうぜ」
「えーでは次、 以前入手したカロリックストーンを動力源に巨大変形ゴーレムを……。えーすでに武器ですらないので却下」
「と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛!」
るし★ふぁーが叫んでいるが、誰もがいつものことと無視しつぎつぎ案を検討していく。最終的には、根源精霊召喚をはじめ七つの神器級アーティファクトを軸に自動迎撃や使用者の能力上昇といったどう考えてもおかしい武器を作ることになったのだった。
やることもきまり世界中で貴重なアーティファクトやアイテムを収集することとなるのだったが、こんなもの一週間で作ることなどできるわけもなく、結構な日数がかかることとなった。
そういえば、たっち・みーはひさびさに休みをとってまで素材集めに奔走したが、家族サービスをすっぽかして、嫁さんに怒られていた。ついでとばかりに、音改も美由経由で抗議の電話が来た。解せぬ。
***
そんな楽しくも忙しい日々を送っていたのだが、ユグドラシルも四周年を迎え、ゲームとして成熟期を迎えている。すでに投資回収を完了し、企業・関係者に膨大な利益を還元されているのだ。もちろん、機能追加や改善だけでなく、コラボなども含めてまだまだユーザーの入れ替わりをあるものの、総数は増え続けている。
そんなさなか、多々良のもとにある報告書が送られてきた。
――アインズ・ウール・ゴウンおよび異世界転移予定者と思わしきユーザーの詳細情報
モモンガが転移した異世界では、一〇〇年ごとにプレイヤーが転移しているようだ。そして、作品時代にはいくつかのワールドアイテムなどが残されており、その所有者が過去に転移した可能性があるとして、現在の身辺調査を行ったものだ。
さて、まずモモンガについては過去に采配した通り、レンラク系列の企業に放り込んでいたのだが、業績はそれほど良くはないようだ。これは本人のユグドラシルにのめりこんでしまい、仕事はまじめに取り組んでいるが‥‥…という姿勢もあるのだが、それ以上に周り、特に上司が良くないようだ。
「いまさらパワハラ上司など」
「これで業績が良ければ一考の余地もあるのだけどね」
多々良と友梨佳に不運にも目をつけられたモモンガのパワハラ上司は、後日詳細調査を受け犯罪行為が発見されば懲戒、なにごともなければ栄転という名の左遷が決まったのだった。
それにしてもアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは多岐に富んだ人材だ。たとえば、ブループラネットは東京アーコロジー内にある大学の自然科学の権威で、現在は環境汚染の調査も行う教授だ。過去、多々良のプロジェクトが自然環境シミュレーションを環境ゲーム化する際に協力いただいた縁もあった。
ほかにも、建築士。声優。AIプログラマ。漫画家。教師などなど。
しかし逆にまずい人材もいる。その筆頭は幼馴染でもあるたっち・みーこと田土満。彼は現役警察官であり上級幹部試験も先日合格しており、ユグドラシルという趣味と妻や娘といった私生活の充実もあってか、出世街道を爆走している。
次にベルリバー。彼は珍しい独立系ジャーナリストでありながら荒事もある程度こなせる腕のある存在のようだ。なにより反メガ・コーポの思想が見え隠れしており、立ち位置的に多々良や友梨佳と敵対する可能性がある。
そしてウルベルト・アレイン・オードル。表向きは東京アーコロジー外周および下層に根を張った探偵。しかし、裏では相当危険な荒事にも首を突っ込むフェイスだ。両親は他界。元ライン工で工場の事故で遺骨さえもどってこなかったという曰く付き。問題はストリートサムライ張りにサイバーウェアで武装していることから、両親死後、孤児を経てどこかの企業のイリーガル担当だった可能性さえある。
悪や悪徳に対するこだわりは、中二病っぽさも感じるが本人が根っからの悪人という感じはない。会話するかぎり知能知識も高く、この世界自体を悪と認識しつつ、自分も悪徳に落ちている。なら悪役なりの矜持を持つべきだと、議論が楽しい相手なのだけどね。分かり合えるかもしれないし、敵対しかないかもしれない。そんな人物だ。
「どうなさいますか?」
アンドロイドの静が確認にくる。
「当初予定通りにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーには可能な範囲で取り込みを。少なくとも生活苦や過労でユグドラシルを引退しないで済む程度に。あと、サービス最終日の計画がある。あれはサービス最終日以降も経過観察が必要なたぐいだ。ゆえに経過観察が容易になるような形になる支援が望ましい」
「かしこまりました」
「ほか、異世界転移候補者についてもサービス最終日の計画に該当する。同様の体制を」
注意深く観察し、もし転職などの機会があれば手を差し伸べ、からめとり、転移できてもできなくても悔いのない形にもっていく必要があるのだ。そしてもし転移できた場合、残されたこっちの状態を観測し……。
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