第二章 ディストピアからの脱出  第四話 NPC誕生秘話

 クランメンバーの増加や意見の対立などもあり、ナインズ・オウン・ゴールを解散しあらたにモモンガをギルマスにしたアインズ・ウール・ゴウンが発足した。そして縁あって危険なグレンデラ沼地の奥に存在するナザリックをギルドホームと設定しひと段落が付いた頃、ギルドメンバーはある意味で燃え尽き症候群に陥っていた。


 なぜなら、ギルドホーム構築が想像以上に大変だったからだ。


 そもそもギルドホームは取得してから最初の一か月間は他者からの攻撃・破壊・乗っ取りなどが無いように保護される。逆に言えば一か月後には保護がなくなるので、自前で準備した防衛設備で戦わなければならないのだ。


 もちろん、以前に美由と音改が作ったギルドハウスのように猶予期間以上に時間をかけて作ることもできる。しかし、あちらは探せば見つかる程度の小規模サイズのギルドホーム。それこそ特別な恨みでも買ってなければ、わざわざ襲撃して奪い取る労力のほうが大変というレベルだ。


 対してナザリックは、ワールド最大のNPC保有量三〇〇〇に匹敵する二七五〇ポイントを有する巨大ギルドハウス。さらに初見撃破特典のワールドアイテムも加えれば替えのきかないギルドホームであったからだ。


・初期の六フロア(表層も合わせれば七フロア)のルート再設定

・追加フロアの作成とルート設定

・このダンジョンの核となるギルド武器(仮)の作成


 他にも玉座の間の前に防衛機構を配置したフロア(後の十層)や、普段ギルメンがくつろぐフロア(後の九層)、安全にギルメンの財産を保管する場所(後の宝物殿)を作りたい。雰囲気を演出するためのNPC(九層のメイドや料理長など)も配置したい。どうせならano空中庭園みたいハイセンスなフロアにしたい。(蛇足)


 などなど……要望がおおいく、アインズ・ウール・ゴウンの内情は、リアルにおけるデスマーチの様相を呈しており、締め切りギリギリで無事登録できたのは昨晩。


 今日もログインしている人もいるが、実質燃え尽きている状態であった。


 そんな中、モモンガに音改が声をかけるのだった。


「モモンガさん。NPCできました?」

「どうしようか考えているのですが、まだイメージがまとまらないんですよね」


 そういうとモモンガは汗を流すアイコンで困ったとジェスチャーするのだった。


「そういう音改もNPC完成しました? せっかく課金して枠までつくったのに」

「防衛のためのダンジョン設計が優先だったので」

「あっ。あの桜花聖域すごかったですね。あの桜の作り込みとか」

「仕事で縁のあった会社からシミュレーションデータを安く入手できましたので」

「やっぱコネって強いですよね」


 そんな話をしていると、ペロロンチーノが話に参加してくる。


「あの桜の舞うフロアすごかったですね。庭園部分だけでなく、建物や地形も含めてなんというか優雅というか映画のワンシーンみたいなフロア」

「ありがとうございます。でもコンセプトや全体のデザインは私でしたけど、実質細かい配置やレイアウトは美由が……」

「「ああ……」」


 モモンガとペロロンチーノは何とも言えない表情で相づちを打つ。結局、ギルドハウスづくりに味をしめた美由が、音改経由で干渉しまくりだったのだ。周りも実質二人は一人みたいな扱いになっていたため、気にする者もいなかった。だからこその暴走。誰にも止められることなく完遂してしまったのだ。


「まあ、それは横に置いてモモンガさん。まだNPCで悩んでいるそうですよ」

「お! いくらでも支援しますよ」

「音改さんもじゃないですか!」

「イメージは出来ているから、この後すぐつくりますよ。そんなわけでイメージが固まってないモモンガさんのNPCづくりを」


 音改は原作のパンドラズ・アクターをイメージしながら切り返す。


「まーそうですね。名前とかは別として、まずコンセプトからきめましょうか」

「宝物殿の管理者ですから財政管理だから頭がいい。ってことはあらゆる戦況や状況に対応できるような感じかな」

「そうそう。そうやって案を口にしていきましょう」


 ペロロンチーノはメモを作りながらモモンガの考えを引き出す。


「あらゆる局面対応となると、いやいっそドッペルゲンガーにしていろんな人の特性で切り替えるような」

「状況ごとに変身して八割程度だけど常に相性問題で優位とか」


 そんな感じで話が進んでいった時、外見はどうしようか……となると話がとまってしまった。


 原作を知る身としてはあまり変な口出しもできなかったので、以前服装が云々いってたのもあり、こんな風に気いりだすのだ。


「いっそ軍服みたいなのどうです」

「おおいいですね。以前ヨーロッパで話題になっていたのを」


 そんな風に原作のイメージを載せていくと


「モモンガさん。先日お貸しした古典のあのエロゲーの首領みたいな」

「ああ、あれいいですね。語り口もかっこいいですし」


 あれ? と音改は首をかしげる。軍服というイメージまでは、原作通りだったが、最後違う流れになってしまった。


 とりあえずその時はいいかと……考えていたが、完成したときの姿をみて驚くのだった。


***


 さて、音改は九層のBAR予定地に来ている。

 戦闘用以外のフロアはまだまだ未完成のためはらんどうの部屋となっているが、音改はここに配置予定のNPCを作ることとなる。


「ま、原作にも登場しないキャラだが、まあ私みたいなものがナザリックにいたという証でもあるわけで」


 と、音改は設定を始める。


 BARということでやはりバーテンダーだろうか。原作ではキノコ頭の副店長がバーテンダーをしていたが、従業員がもう一人いてもいいだろう。


 お酒にフードなどを作るなら最高ランクの料理スキル。食材はどうやって入手するのか? 第六層あたりで栽培とダグザの大釜を設置してそこから入手するとしよう。ただ酒は……やはり酒を造る力を持たないといけないかな。そうなると少々の商人スキルと錬金術スキルも必要か。あと水魔法か。


 映画や物語に出てくるバーテンダーのように、荒事にも対応できるよう接近戦。イメージではボクシングとかナイフとかそんな感じで対応できるように。それなりの戦闘スキルを。


 設定にはあえて過去の日本からの転生者を書いておこう。悪魔と出会わず、自分の人生に納得し、眠るように死んだ男性が転生したという設定で。そして飽食の時代といわれた日本で、それこそ世界の料理や酒の知識を前世の記憶として携えて、それら記憶は劣化することなく保持。こうすれば、異世界でもあの時代の食事や酒を楽しめるかな?


 ナザリックだから異形種なのだけど……バーテンダーとしての恰好が似合うことを考えると人間に近い姿……ヴァンパイア……はシャルティアとかいるしインキュバスにするか。そうすれば見た目はほぼ人間だからイメージ通りの恰好になるな。ただインキュバスとしての種族レベルは低くしておくか。バーテンダーであることがメインだからな。


 最後に性格は誠実。属性は中立。客商売だ、属性は善だろうと悪だとうと平等に接する、品のある店を切り盛りする青年バーテンダー。なによりナザリックの中で運営する店なのだ、酒の席の情報は漏らさず、利用者にひと時の安らぎをあたえる。


 NPCたちが動き出して、みんなに幸せになる一助となることに喜びを感じるように。


 名前は……


「お前は、サービス終了後異世界でどんな風に動き出すのだろうか。盲目的に生きるのではなく、信念をもってお客様にひと時の安らぎを与えられるような存在として生きてほしいな」


 後々いろいろ設定は清書したり、細かく書き直したりするが、こうやってBARナザリックのバーテンダーは生み出されたのだった。


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