第一章 悪魔の存在証明 第六話 悪魔の存在証明
お話的には前半終了。
ある意味本編が次話からスタートします
次の話ですが
7/24 0時以降を予定(実質 1日2話の日)
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さて、アレからのことを記録しよう。
多々良と友梨佳はそのあと直ぐレンラクの部隊によって救助された。
通例であれば緊急手術などが終われは三浜の人間である友梨佳は、三浜の医療施設に移送されるのだが、なぜかそうされることなく多々良の隣の病室にいる。
事件は警察、レンラク、三浜の合同チームによる捜査が行われた。
結果。反企業・反アーコロジーを掲げる団体によるテロということになり、実行団体の強制捜査が行われ裏付けられた。そしてテロということもあり、学園も子供を守って教師が殉職したこともあり被害者という扱いとなったため、今後の警備計画を見直すという形で決着した。
――もっとも。そんな形で取引がされたと多々良は考えている
そんな状況報告を病院の一室、正確にはまるでホテルのスイートルームのようなVIP用個室のベットで聞いた多々良は、報告者の静に質問するのだった。
「とりあえず今回はそうなったのだな?」
「はい」
「数点教えてくれ。友梨佳の扱いはどうなった?」
まあ自分のことは追って聞けばよいと考え、まず気になったことを口にした。
「検査の結果、一般的な遺伝子操作体である以外、異常はみられず、いたって健康です」
静の言い回しに多々良は眉を顰める。
「友梨佳は自身をクローンといっていたが、それに対する一般的なクローンプロセスに発生しえる異常もなかったんだな?」
「はい。遺伝子操作による知能系の強化はされておられるようですが、いわゆるクローンプロセスに発生しえる異常は発見されませんでした」
この言葉だけなら、友梨佳はクローンではなく遺伝子操作を受けた普通の人間か、三浜が完全なクローン技術を完成させたかの二択に思われる。しかし、多々良には第三の可能性が思い浮かんでいた。
「次の質問をしよう。あの時すぐに隔壁解除できたのに何故しなかった? 制御権の奪取など加速したデッカーの攻防なら六十秒でかたが付く。普段の静ならそれこそ十秒でおつりがくるのだ。どれほどのリソースが割かれたんだ? それとも相手はそれほどの存在だったのか?」
あの時 静は一とゼロと回答し多々良は十分と判断したが、そこが間違いだったのだ。
あの隔壁は外部デッカーの侵入によって閉鎖され、静のバックアップであるレンラク側のデッカーが制御権を奪取して開放した……というシナリオだ。しかし、仮にもレンラク幹部と同等権限が与えられている者の護衛が、手間取るならどれほどの存在だったのかとなってしまう。
静は10秒と回答し、多々良は10分と解釈したのをいいことに……
「本社は多々良様の身体的特徴について、すでにある程度把握しております」
「そういうことか」
つまり今回の事件は多々良自身の性能テストも兼ねていたということなのだろう。
たとえ汚染物質であっても克服できるか。
その過程で友梨佳がどうなるかなどは二の次で。
「で? その評価結果は?」
「現存、アーコロジー外を生身で歩ける唯一の人類かと」
「とんでもない評価をありがとう」
人外認定された気分である。もっとも多々良自身も遺伝子操作体である。レンラクはその成果として強靭な肉体と圧倒的な治癒力を得ていると判断したのだろう。
「くわえるなら、その強靭な治癒力を経口摂取で他者に一時的にあたえた可能性もあります」
「はっ?」
しかし、静のコメントに多々良は一瞬思考停止する。
「言ったではありませんか。友梨佳様は健康だと。汚染物質の浸食を受け、後遺症もなく治療? できなくはないですが、さすがにこんな短時間では不可能です」
汚染物質に浸食を受けた場合、手術によって該当部位を除去し人工身体への移植となる。いわゆる富裕層であれば自己クローンによる移植となるが、培養時間などもありかなりの時間を要する治療となる。
「つまりそういうことか?」
「はい。多々良様の遺伝子操作が突然変異か、成長によるものか現在研究が進められております。少なくとも多々良様に施された遺伝子操作は、過去類を見ないレベルの高い治癒力を発現すると判明しておりますが、あくまで自己治癒が中心です」
つまり、俺という存在自体が万能薬。ファンタジーっぽく言うならオートリジェネの身体強化したつもりが、人体そのものがエリクサーのような存在ができた可能性があるということだ。
「じゃあ、今後は?」
「レンラク経営委員会から護衛が増えることが通知されております。それ以外は追って」
***
その夕方。多々良は友梨佳の病室を訪れた
「もう起きて大丈夫?」
「ええ、おかげさまで助けてくれてありがと」
微笑む友梨佳の顔にいつもの元気がなく、どこか影が落ちていた。多々良はその理由を探そうと部屋を見回す。
病室に変なものはない。しいて言えばベット脇に置かれた個人用情報端末ぐらいなものか。
いつも在って無いもの。
護衛がいない。
「三浜から何か言われたか?」
もちろんいつもの護衛(襲撃犯)がいないのは当たり前として、三浜の姫に護衛がいない。つまり。
「うん。私、レンラクに売られちゃったみたい」
友梨佳はポツリとつぶやく。
つまり、今回の事件の落とし前ということだろう。本当にこの世界は余裕がなさすぎる。
こんな子供一人に事件の責任を押し付け、取引の材料とするのだから。そして、なお気分がわるいのは、多々良がその取引側ということだ。
「たぶん三浜内部での権力がなくとも、私を全面すなり、結婚なんかで使えば三浜との友好を。私の体を調べれば、現在の三浜のクローン技術レベルの裏付け、うまく配列まで解明できれば……」
ああ、この子は自分の状況を正しく理解できてしまっているのだ。
そう気付いた多々良は、友梨佳に近づき抱きしめる。あの時のように守るような感じでなく、力強く拘束するように。
どこにも逃がさないように。
「静。経営委員会は俺にどれほどの値段をつけた?」
多々良はいつのまにか部屋の扉脇に待機していた静に問いただす。
「従来の定期的な検査に加え、倫理的にも一線を踏み越えた実験への全面協力」
「報酬は?」
「多々良様と友梨佳様のアーコロジー上層における生活の保障などいかがでしょうか? もちろん今されている仕事への報酬は別にございます」
ああ、本当にこの世界は詰んでいる。
「友梨佳さん。ごめん。こんな感じになりそうだ」
「うん……」
本当にディストピアだ。異世界に逃げたくなるのも理解できるよ。
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