第二章 ディストピアからの脱出 第一話 異世界脱出計画
――この世界はすでに人類が地上で生活するこが不可能となっている
科学技術でなんとか食いつないでいるが、未来永劫は無理、どう考えてもジリ貧と誰もが認識している。
そこでメガ・コーポはそれぞれの方針に基づいて未来を模索している。
たとえば姉木多々良が創業一族に名を連ねるレンラク・コンピュータ・システムズには、宇宙空間に浮かぶ発電衛星アマテラスと高度七千m以上にて運用する高高度プラットフォーム クレイドル建造計画がある。二年前の二一一六年にクレイドルの一号機が稼働。現在三千人のスタッフが日本のはるか上空で、アマテラスのエネルギーを活用し自給自足生活の基盤を整えている。最終的にはこれ一つで数千万の人類が生活可能というものだ。
逆に突飛な計画も存在する。ロサンゼルスに拠点を置くホライズン・グループの対策である。ホライズンの中心企業はメディアとエンターテイメントであり、その意思決定機関は、企業市民のビックデータから得られた「市民の総意」を参考にしていることは有名な話だ。そんなホライズンの救済策は全人類を自社グローバルネット・ペルソナ上に置換するというもの。分かりやすく述べるなら全人類を電子の存在としてしまうというものだ。
大なり小なりメガ・コーポは生存戦略を打ち立てつつ、このディストピアを維持しているのだ。
そんな二一二四年。多々良と友梨佳は十八歳となり結婚をし、表向きとプライベート二回の披露宴を開催した。
表向きはレンラクと三浜の創業一族の婚姻ということで大々的に発表され世間を驚かせることとなった。
もっともプライべートは個人的に友好のある数名を呼んだホームパーティーだったのがいけなかった。そのパーティーに参加したのはそれこそ、小学校時代からの共通の友人である田土満に、そのパートナーとなった田土詩織など本当にごくごく身内のみ。
しかしマスコミは邪推し
「三浜とレンラクの最高経営責任者が、プライベートという形で密談したのではないか?」
という妄想記事が書かれるほどであった。
もっとも二人の馴れ初めは小学校時代に発生した反アーコロジー派テロから、手を取り合っての生還というまるでドラマのような話のため、世間的にも評判は良いものだった。
***
オーバーロードの本編は、ユグドラシルというゲーム内キャラクターであったモモンガが、ギルドごと異世界に転移したところから始まる。
「異世界への脱出ね」
姉木友梨佳に言わせれば、そんな解釈になるそうだ。
さて、この世界におけるユグドラシルプレイヤーが異世界に脱出できるかどうかは別として、多々良の権限と予算の範囲内で異世界脱出計画は推進することが、レンラク経営委員会より承認されたのだった。位置付けは、数多ある人類救済プランのサブ未満の秘密プランとして。もちろん秘密を知る関係者として友梨佳もこのプロジェクトに強制参加である。
ちなみになんでこんな非現実的なプロジェクトが承認されたかというと、他にも魔法研究や超能力研究、タイムトラベルなどの眉唾研究も存在していることと、メディア・エンターテイメント部門としての収益があるので承認されたのだ。
そんなユグドラシルであるが、二一二四年に開発企業が判明した。当初は神々の黄昏という開発コードで進んでいたが、二年後の発売を目指すにあたりユグドラシルという正式名称が決定されたようだ。問題はその開発企業でだが……。
「まさかうち(レンラク)と三浜の合弁企業が開発とは」
「てっきりエンターテイメント最大手のホライズンか三浜と思ってたものね」
まさしく二人にとっては予想外の代物であった。しかしその経緯を調べてみると、原因は案外単純なものであった。
① ゲームプロデューサーはもともと九つの世界という広大なオープンワールドを軸とした壮大なゲームを考えていた。
② しかしその広大なマップをただ作るだけでもコストがかかる。
③ おっ。調べてみら多数の自然環境シミュレーション情報をライセンス販売されてるやん。さらに有償ライセンスならではの活用として、パラメータをある程度指定したオリジナルの環境情報も簡単に入手できる。
④ しかもレンラクのハードでタイトルを出せば、ライセンス料が割引!。
⑤ レンラクハードの開発ライブラリの活用前提で、資本申請が通れば開発費の補助が出る
前世でもあったような契約形態を準備して、VR業界に根を張っていたのだが、まさか見事に引っかかるとは。そう考えると、原作のユグドラシルは三浜単独開発だったのだろうか?
「さて、どう介入したものか」
「もともとプロジェクトへの資本注入や買収も視野にいれていたんでしょ? いくら予算確保してたの」
「八十億」
多々良の答えた数字に、一瞬遠くをみた友梨佳は再度質問をする。
「円?」
「米ドル」
「どんだけかき集めたのよ!」
さすがの友梨佳も声を荒げる。日本円換算で約一兆円以上。メガ・コーポといえども、一事業部の予算ではなく、経営委員会承認が必要となるレベルである。
「別に隠れて集めたわけじゃない。例のエンターテイメント戦略で……」
表向きは全世界自然シミュレーション情報のライセンス販売。自社フルダイブコンポーネントの販促。最後に表に出せないが、大きい利益を出しているゴーストダビング技術の成熟と展開。それらの理由で、多々良の扱える予算は年々増大しているのだ。
「で、ユグドラシルへの介入……実際どうするの?」
「まず、最終日時点で異世界転移できた場合とできなかった場合は……」
こうして異世界脱出計画は正式にスタートしたのだった。
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