#5


「ほら、手が止まってるよ!」


ハッと我に返る。


「全く、ぼーっとした子なんだから…」


母はブツブツ言っている。


「姉さまはぼーっとしてるんだから…」


2階から階段に顔を出して、ケイトリンがマネする。


どうしたら母のように気持ちを切り替えられるのか、

私にはよく分からなかった。

そのうち分かるのだろうか。



にわかに外が騒がしくなった。

先ほど読み聞かせしていた広場の方向だろうか。


「なんだろう…あんた、行って見てきたら?」


母に言われるまま、私は家を出た。

石畳の道を抜けると、

大人がギリギリ跨ぐことができるかどうか、

絶妙な太さの小川がある。

小川の両側には背の低い草と、

風に揺れる紫とピンクの小さな花。

渡りやすいように、

小川には木でできた橋が架かっている。

橋の先はすぐに広場だ。


広場の中央から数メートルにわたっては

灰色の石が敷き詰められていて、

広場の端には、先ほど読み聞かせをしていた

大きな木が一本。

その反対の端には、主に村の男たちの

憩いの場となっている酒場がある。


広場の中央に数人が集まっていた。

人だかりの中心には、明らかに周囲の人とは

異なる格好をした3人の男女。

黒髪をポニーテールにし、

黒のピッタリとした服に

茜色の風変りな前合わせの羽織を着た

小柄な女の子が、中年の女性数人に声を掛けている。

その横には、背が高くてガタイが良く、

ライオンのたてがみのような赤味がかった茶色の髪を

無造作に流した男性が、

退屈そうに隣の男性に話かけていた。

その隣の男性を見て、

私は一瞬息が止まりそうになった。


短くツンツンと横にはねる栗色の髪。

緑色の瞳。

恰好こそ以前とは全く違うが―――


「キーアン!?」

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