第1話 キーアンの帰還

#1

四角い灰色の石畳を敷き詰めた道が、

オレンジの屋根の家々の間に伸びている。

家の壁は、ランダムな大きさの石を敷き詰めた、

この地方特有の模様だ。

家々の間には針葉樹がまばらに生えており、

樹々と家の間から夕日が差し込んでいた。


私の右手には、ずしりと重たい、

革表紙の大きな絵本。

父からもらったものだ。

年に数回の収穫期の後、

村の男たちは貿易港のある王都コルディエに行く。

父はコルディエに行く度、

まだ小さい私のために

絵本を買ってきてくれたのだった。

成長してしまった私の部屋の本棚の片隅で、

埃をかぶっていた物語の数々。

もったいないので村の子供たちに

読み聞かせを始めたところ、

今では週に一度のイベントとして

定着してきていた。


遠い国のラブロマンスに、心躍る冒険譚。

小さい頃の私にとっては、

この革表紙の中の世界が憧れだった。

「ま、今は現実をわきまえているけど」

誰に言うでもなく、つぶやく。

私は普通の村に生まれた、

普通の女の子。

村で過ごす平穏な人生、

それが幸せに違いないのだ。

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