第2話 土産

  七緒ななおちゃんは小一時間で私が監禁された部屋に帰ってきた。


「ただいまー綺花あやかさんっ」とか「家に帰ると、綺花さんが待っていてくれるなんて、なんだかすごく幸せですねっ」とか……可愛らしいことを言ってくれるのは私も嬉しい限りであるのだけど。


 十分逃げる余裕あったよ? 部屋も玄関も普通に開いてて、私も手脚自由で……え、七緒ちゃん、本当に私のこと監禁する気あったの?


「七緒ちゃん、おかえり」

「はい、お留守番しっかりしてくれた綺花さんにはちゃんとプリン買ってきましたからねっ」

「あのさ、ドア普通に開いてたよね? あれ、出ようと思ったら、私出られたと思うんだけど」

「……へ? 綺花さん、わたしから逃げようとしたんですかっ!? ひどいっ、そんなっ……だってわたし達付き合っていて、わたしこんなに綺花さんのこと好きなのにっ」


 私の言葉に、七緒ちゃんのエコバッグを握った手が震えた。


「えっ、いや逃げようとしたって言うか……逃げようとしたら逃げられたよね? て話で……」

「でも部屋のドア、開けたんですよね?」

「……玄関も普通に内側から鍵開けられるし、靴もそのままだったよね?」

「玄関もっ!! 綺花さん、全然おとなしくお留守番してくれてないじゃないですかっ」


 ――あれ? これ監禁じゃなくて、やっぱりただの留守番だったの?


 いやいや、そんなはずない。ちょっとしたことで浮気を疑われた私は、七緒ちゃんからこの部屋に閉じ込められたのだ。間違いなく重い愛故の監禁である。


「怒りましたよ、わたし」

「もしかしてっ、お仕置き!? そんなっ私、七緒ちゃんに言われたとおりしてたのにっ」


 よしよし、やっぱりヤンデレだ。普通これくらいのことでお仕置きなんてしないもんな。きっと部屋を出ようとするかどうか試していたんだ。うん、監禁がザルだったのは、私の愛を試していたヤンデレ故のあれなんだな。

 きっと重いお仕置きが待っているに違いない。なんだろう、痛い系はあんまり好きじゃないけど……でも愛故なら、私頑張るしっ。


「プリン、実は二種類買ってきてて……こっちはクリームたっぷり載った豪華なやつで、綺花さんにって思って買ってきたんですけど……」

「ぷ、プリン……?」

「やっぱり悪い子な綺花さんにはこっちのノーマルなやつですっ! でも安心してください、そっちもすごく美味しいですからっ。値段も大差ないですし」

「えっ、いやその……お仕置きは……? 安心って?」


 胸のわくわくが、一瞬で冷めていってしまう。

 正直、プリンとかどうでもいい。嫌いってわけじゃないけど、特別好きということもない。

 だいたい――。


「値段一緒なら、最初からクリームのプリン二つでよかったんじゃない?」

「本当は、綺花さんと半分ずつ食べ比べしようかなって思ってたんですよ。それなのに……綺花さんがお留守番できないから……」

「ご、ごめん?」


 ヤンデレと言うより、痴話喧嘩というか……なんか子供の駄々っ子レベルな気がする。ダメだ、こんなんじゃ軽すぎる。私はどこかに浮いていってしまいそうだよ。


「そうじゃなくてね、七緒ちゃん! プリンはいいからちょっと聞いてよっ」

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