念願のヤンデレ彼女がポンコツ過ぎて、私はどうしたらいいですか!?

最宮みはや

第1話 監禁

 逃げ出したくなるくらい、重い愛が欲しかった。だから監禁されたて、やっと念願のヤンデレな彼女ができたんだって喜んだんだけど。


「これで綺花あやかさんは、わたしだけのものです」


 妖艶に微笑んだのは付き合って二週間ばかりの私の恋人、七緒ななおちゃんだ。肩にかかるくらいの茶髪で、MARGARET HOWELLマーガレットハウエルっぽい上品で大人っぽい服を着ている。そこら辺の女子大生よりも、頭一つくらいお嬢様だ。だけどそんな外見とは裏腹に、昨日ちょっとサークルの飲み会で私が他の女の子と仲良くしていだけで呼び出された彼女の部屋にそのまま閉じ込められてしまうほどに、重たい愛と局所的にズレた倫理観の持ち主である。

 十人が十人、彼女の本性を知れば関わるべきでないと言うだろう。しかし、私は違う。私は愛の重たい恋人をずっと探していた。


「七緒ちゃん、ねえ、お願いだから考え直して。昨日のことなら、私謝る。もう七緒ちゃんを不安にさせるようなことなんてしないから……」


 もちろん、内心では諸手を挙げて『監禁歓迎!』なのだ。

 七緒ちゃんには本当に申し訳ない限りなのだけれど、それでも彼女を不安にさせておかないと、『あ、なんだ。綺花さんって浮気の心配とかなさそうだし、わたしも監禁とかよくないですよね。お互い束縛なく、カジュアルな恋愛を楽しまなきゃ!』みたいに心変わりされてしまうかもしれない。

 悪いのだけれど、私は口では彼女のを重い愛に戸惑う女として振る舞わせてもらう。当然、適度に他の女の影もチラつかせる。自分でも認めよう、悪女だ。そう思ってもらって構わない。悪女になってでも、ヤンデレに重く愛されたいのである。


「そんなこと言って、綺花さんは直ぐまた他の人に色目使うじゃないですか。……でもここならもう安心です。ここに居る限り、綺花さんにはわたしだけですからね」

「七緒ちゃん……っ!」


 思わず、目がハートマークになっていた。ただあくまで気持ち的なものでしかないから、七緒ちゃんには気づかれていないだろう。


「それでは食材などを買ってきますが、おとなしくしていてくださいね」

「七緒ちゃんっ、私お家に帰りたいよぉ」

「ふふ、代わりにプリン買ってきてあげるからお留守番よろしくお願いしますね」

「……ぷ、プリン」


 プリン程度で監禁をチャラにできるというのは、ちょっと虫がいいのではないか。と思いながら、私は部屋に取り残される。


「あっ、待って、七緒ちゃんっ!」


 閉じられたドアを見つめながら、私は戸惑う。

 もちろん、お土産はプリン以外が所望だったからじゃない。


 ――監禁されたはずなのに、私部屋にそのままだけど……大丈夫なの!?


 私は手や足を縛れているわけでもなく、ただベッドに腰掛けたままだ。そんな自由に動ける私を残して、七緒ちゃんはそのままバタンとドアを閉めて出て行ってしまう。

 いやいや、さすがに……そう見えないだけであのドアは外から鍵がかけられるタイプなのだろう。

 女子大生が都内で一人暮らしするのには手堅い感じの、オートロックで小ぎれいなマンションの一室。間取りは多分1DKで、五階建ての最上階というのもまた育ちというか親から手厚い保護があるのを感じさせる。ただこの手のマンションに、中から開けられない類いの鍵がついてるドアって見かけない。DIY的な感じで付けているんだろうか。賃貸でそんなことしていいのかな。

 内開きだったから、外から荷物か何かで開かないようにしているってこともないだろうし。


「……逃げるつもりはないけど、一応ね」


 なにか言い訳するように、私はドアノブに手をのばした。


「え? 嘘でしょ七緒ちゃん……」


 開いた。普通に開いた。そのままキッチンを通り抜けて、の玄関についてしまう。こっちにこそ、なにか細工があるんだろうか。

 錠を捻ると、普通にドアが開いて、マンションの廊下へ出られそうだ。きょろきょろ辺りを見回すが、七緒ちゃんが見張っているみたいなこともない。

 私が履いてきた靴もそのまま玄関に置かれていたので、履いてこのまま出ることも可能だ。


 ――七緒ちゃんっ!! そんなっ、監禁がザル過ぎるよっ!! これ普通に遊びにきた友達を留守番させているのと変わらないよっ!?

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