第3話

 一ヶ月後、ぼくは手術台の上にいた。そして横には手術着にゴーグル・マスクといったフル装備の一宮さんがぼくに話しかける。


「それでは、御坂さん、これから全身麻酔をかけて手術を開始します。よろしいですか?……今ならまだ引き返せますよ。」

「この土壇場でその言葉はズルいですよ。……大丈夫です。お願いします。」

「……わかりました。それでは御坂さん、手術内容は先程お話したとおりです。麻酔により意識が徐々に落ちていきます。その後の事はお任せください」

「わかりました、お願いします。」




「……意識レベルの低下を確認しました。脈拍正常です。いつでも行けます。」

「了解。これより脳の摘出手術を開始する。」



 執刀医がボソリと一宮にしか聞こえない程度の声量で呟く。

「……仮想現実の世界で生きる、か。小説や映画の中でしか起き得なかった事が現実になるとはね。」


 一宮もその耳が言葉を脳内で反芻し、執刀医に聞こえるか聞こえない程度の声量で返事をする。

「目の前に被検体がいるのに、実感が湧きませんね。」

「我々にとってはそんなものなんだろう。そして、この人にはそれが救いか何かだったんだ。これはきっとそういうことだろう。…始めるぞ。」




 無機質で規則正しい機械音が鳴り響く中、手術は進んでいく。

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