第2話
頭を整理するために煙草を吸おう、そう思い喫煙所がないか一宮さんに聞いたところ、屋上にあるとのことだったので、軋むような感覚を覚える間接を動かしながら屋上へ向かう。
タブレットの中にある一宮さんからもらったデータを流し読みしながらぼくは紫煙を吐き出す。頭の中ではすでに結論は出ている。親とはもう何年も連絡を取っていない。兄弟どこで何をしていかも知らない。実質天涯孤独で日々職場と自宅の往復、趣味はゲーム。友人らしい友人の連絡先も片手で数えられるぐらいしかいない。
既に署名欄に名前を書いたファイルを見ながら、ボーっと青空の雲を追いかけながら煙草を灰に変えていく。
そうして幾本か煙草を灰に変えていくと、屋上の入り口からドアが開く音が鳴り、ぼくの方に誰かが近寄って来た。
「こんにちは、紙巻きたばこですか…珍しいですね。一本いただいても?」
声の方に顔を向けると、そこには患者衣を来た四十代程の男性がこちらに片手で拝み手をしながら立っていた。
「えぇ…どうぞ。一年前のものなので香りはかなり飛んでいますが…」
「本当ですか、ご馳走になります。最近ですと滅多に吸ってる方がいらっしゃらないものでして、大変助かります。……一年モノですか…そうするとあなたもアルファテスターですか?」
煙草を吸いながら話を続けていくと、その男もどうやら夢幻のアルファテストユーザーらしいが、担当者から与えられた"選択肢"で悩んでいるらしい。
…このテストに参加した時点で決まっているようなものなのに。
ぼくはその人の背中を押してあげることにした。
「"こちら"ではあなたのことを知らないしあなたを知る気もありません。ですが…ぼくと同じ道を歩むのであれば、ぼくらは似た者同士なのでしょう。」
吸い終わった煙草を灰皿にねじ込み、彼に挨拶を投げかけながら屋上を後にした。
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