匙休め04 アイはグラッド!:神田カレーバディ賞

 「神田カレー街スタンプラリー2023」では、AからEまである各コースを制覇した猛者に、その数に応じた称号が与えられる事になっている。

 例えば、一コース制覇者に無印の「神田カレーマイスター2024」が、二コース制覇者に「ブロンズマイスター」が、三コース制覇者に「シルバーマイスター」が、四コース制覇者に「ゴールドマイスター」が、そして、五つ全てのコースの達成者には「グランドマイスター」の称号が与えられる、といった次第なのだ。

 また、こうしたコース制覇者以外にも、コースを問わず、カレー提供店三十五軒以上の訪店者に対して、「フリーコース」として、一コース制覇者と同格の「神田カレーマイスター2024」の称号が与えられるようにさえなっている。


 しかし、無印のマイスターとはいえども、通常のコースにおいては二十八か二十九の店、フリーコースにおいては三十五店を、約四か月半、一二四日の間に訪れる、というのは、よっぽどのカレー好きでなければ、なかなか出来る事ではない。

 ライトなカレー好きが気軽に参加できるようでなければ、こういった企画はカレー・マニアだけのものになってしまいかねない。


 実は、である。

 運営側に、こういった懸念があったかどうかは分からないのだが、駅と書店を除いて、コースフリーで十個のスタンプを集めた者に対する「神田カレーバディ賞」なる企画も用意されているのだ。

 十店ならば、達成難易度は相当さがるし、スタンプラリー・ガチ勢ではなくとも、良い意味で〈軽率〉に、神田・神保町のカレー店巡りに参加できよう。


 その「神田カレーバディ賞」の有資格者には、カレー仲間の証として、カードと景品が与えられる事になっていて、その配布開始日が、この日、〈九月一日〉だったのだ。

 そういった次第で、九月一日の午前中、早速、書き手は九段下に向かったのであった。


 カードの配布場所の千代田区の観光協会は、メトロの九段下駅の、武道館に最もアクセスがよい四番口から出て、坂になっている靖国通りを少しだけ下り、その靖国通りが、目白通り・内堀通りと交差している十字路を右折して、しばらく進んだ建物の一階に位置している。

 受付場所は、入口はいってすぐのインフォメーション・カウンターで、そこで、バディ賞のカードの件で来た旨を伝えれば、シートに押されているスタンプの個数が十個以上である事の確認後、二種あるデザインのうち、いずれのカードが欲しいかを訊かれ、バディ賞のスタンプがシートに押された後に、カードと景品一式が入った袋が手渡される。


 書き手は、八月三十一日の時点で既に五十個以上のスタンプを集めていたので、数えるまでもなく、ぱっと見でバディ賞に必要な条件をクリアしているのは明らかで、シートを見た受付の方達に驚かれてしまった。

 結果、軽く会話を交わせるような雰囲気になったので、既に何人くらい来たかを尋ねてみたところ、四人との回答を得た。未だ配布開始数分しか経っていないのに、書き手は五人目であったようだ。


 バディ賞のカードを受け取った後、書き手は、記念の写真を撮り、汚損しないように、カードをスリーブに入れ、ケースにしまう、といった〈儀式〉をしていたのだが、そのわずか数分の間に、二〜三人の同好の士がやって来た。どうやら、気が早いのは書き手だけではないようなのだが、その際に聞こえてきたのは「北斗の拳で」という声であった。

 

 カードのデザインは、千代田区観光協会観光大使である「リラックマ」と、きたる九月十三日で連載開始四十周年を迎える『北斗の拳』の二種類があって、その『北斗の拳』は、今回の「スタンプラリー23」とコラボをしているので、バディ賞のデザインになっているのもその一環なのだ。


 かく言う書き手も、その『北斗の〈券〉』を欲して、配布日初日に九段下にやってきたのである。


 バディ賞カードに描かれているケンシロウ自体は、ジャンプ・コミック版の第十八巻の表紙絵なのだが、これに、カレー企画とのコラボゆえのアレンジが加えられていた。 

 インドカレー店でカレーが提供される時に使われる銀色の大皿を〈ターリー〉と呼ぶのだが、バディ賞のカードは、カレーが入った小さな容器やナンが置かれたターリーを右手に持ったケンシロウという図柄である。


 カードを眺めながら、破れたライダースジャケットに上半身の肌が剥き出しのケンシロウが、カレー店のスタッフとして、「わっちゃぁ」とか言いながら、ターリーを運んでくる様子を思い浮かべて、書き手は、思わず吹き出しそうになってしまった。


 とまれかくまれ、『北斗の拳』のランダムカードをコンプするために、毎日カレーを食べまくっている書き手は、このカレー愛好者の証である、バディ賞のケンシロウデザインの一枚がどうしても欲しかったのである。


 そして、透明のスリーブに入ったそのカードを持った右手を高く掲げながら、書き手は心の中でこう叫んだのであった。


 「Iはglad!」


〈訪問データ〉

 千代田区観光協会:九段下エリア

 九月一日・金・十時


〈参考資料〉 

 『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、十一から十六ページ。

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