第20匙 平成十一年、一九九X年、駿河台に本格派のインドカレー店が現れた:ガンディーマハル(A08)
「一九九X年 世界は核の炎につつまれた!!」
これは、一九八三年九月十三日・火曜日発売の、『週刊少年ジャンプ』第四十一号から連載開始となった『北斗の拳』の最初の一ページ目に書かれている文言で、すなわち、この作品は、連載開始の一九八三年からみた、「一九九X年」以降の近未来を時代設定にしている。
これは、一九八四年から放映開始になったTVアニメにおいても同様で、第一話から、第一部最終話の第二十二話まで、オープニング曲の前に同じ文言が繰り返されている。
一九八〇年代中盤、昭和の末期に、『北斗の拳』を漫画版で読み、TVでアニメを観ていた読者や視聴者は、昭和四十年代以降に流行した『ノストラダムスの大予言』における「一九九九年七の月に恐怖の大王が来るだろう」という予言の影響もあって、『北斗の拳』において核が落ちた「一九九X年」を〈一九九九年〉と解釈した者もいたであろう。かく言う書き手も、〈一九九九年〉とみなしていた一人である。
実際、作画の原哲夫氏が後に語っていたそうなのだが、『北斗の拳』の冒頭の「一九九X年」は〈一九九九年〉を意識して描いた、との事である。
二〇二三年現在からみて、〈一九九九年〉は既に過去となり、実際に、一九九九年に恐怖の大王(アングルモワ)はやって来なかったし、二〇〇〇年問題も杞憂に終わったのだが、『北斗の拳』が大ヒットした昭和の最後という時代、〈恐怖の大魔王の到来=核の投下による第三次世界大戦の勃発〉は、あり得る未来の一つとしてのリアリティを持ち、『北斗の拳』に熱狂していた少年たちの深層心理に深く刻み込まれたのではなかろうか。
だから、実際に一九九九年が到来した時、少年期に『北斗の拳』を体験した二十代・三十代の者たちの中には、突然、核戦争が起こって世界が終わりを迎えたり、あるいは、「海は枯れ 地は裂け…………あらゆる生命体は絶滅したかにみえた…………だが…人類は死滅していなかった!!」ものの、暴力が全てを支配する、『北斗の拳』のディストピアが訪れるかもしれない、という可能性を脳裏に思い描いた者もいたに相違ない。
そして、恐怖の大王がやって来るかもしれない、あるいは、世界が核の炎につつまれるかもしれない〈一九九九年〉に、〈東京復活大聖堂(ニコライ堂)〉が在る〈神田駿河台〉界隈に開業したインド料理店が〈ガンディーマハル〉である。
店名前半の「ガンディー」は、西インドのグジャラート州出身の〈マハトマ・ガンディ〉からとって、後半の「マハル」とは〈宮殿〉の意味なので、直訳すると「ガンディーマハル」とは〈ガンディー宮殿〉という意味になるのでは、と思っていたら、店のサイトにおいて、店名は「ガンディーの家」という意味で、「インドの『偉大な魂』マハートマ・ガンディー氏の広く深い心に思いを寄せ名付け」た、という説明が為されていた。
なるほどである。
とまれ、世紀末に開業したガンディーマハルのスタッフは全員インド人という、本格派のインド料理店なので、
「一九九九年、駿河台に、本格派のインドカレー店が現れた」
というキャッチを付けたい気持ちになった書き手であった。
今年の「スタンプラリー23」は『北斗の拳』とのコラボ企画もやっているので、一九九九年に開業した店を訪れて、つい、こんな発想をしてしまった次第なのである。
〈訪問データ〉
ガンディーマハル:淡路町エリア
A07
八月二十九日・火・十七時半
ディナー2種カリーセット(ベジタブルカレー、ほうれん草とポテトのカレー):九八〇円(クレカ)
北斗の〈券〉:No.12 シュウ〈五枚目〉
〈参考資料〉
「ガンディーマハル」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、三十四ページ。
『北斗の拳』第一話、東京:集英社、『週刊少年ジャンプ』第41号所収(ジャンプ・コミックス、第一巻)。
〈WEB〉
『ガンディーマハル』、二〇二三年八月三十一日閲覧。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます