匙休め11 苦くて泡立つ黒ビール:お酒の話その一、ギネス
〈夜にカレーと共にお酒を楽しむ〉という企画第一弾として、書き手は、〈西神田エリア〉のバーを、東から西に向かって一夜一軒ずつ訪れていった。
一夜目に訪店したのは、神保町デルタゾーンの左辺の頂点付近に位置している建物に入っている「ピッグテイル」で、そこで、書き手は、〈黒ビール〉で育てられた豚を食材としたカレーを注文した。そういった分けで、この黒ビール豚カレーに合わせて、〈スタウト〉を注文する事にしたのであった。
スタウト(stout)とは、黒くなるまでローストした大麦を使用し、〈上面発酵〉によって醸造されたビールで、色は黒く、味は苦味や酸味が強いのが特徴である。そもそも、スタウトとは〈強い〉という意味なのだが、このスタウトとは、主に、アイルランドやイギリスで作られており、その代表メーカーこそが、今から約二六〇年前に、アイルランドのダブリンの〈セント・ジェームズ・ゲート醸造所〉で生まれた「ギネス(Guinness)なのだ。
ちなみに、スタウトには、フォーリン・スタウト、スイート・スタウト、オートミール・スタウト、インペリアル・スタウト、オイスター・スタウトなど、細かな区分があるのだが、ギネスは、〈ドライ・スタウト(Dry stout)で、このタイプのスタウトは、〈アイリッシュ・スタウト(Irish stout)〉とも呼ばれ、強くローストした故の麦芽の苦味とクリーミーな泡立ちが、その特徴であるらしい。
とまれ、アイルランドの黒ビールである「ギネス」は泡立ち、黒くて苦いという印象の飲み物なのである。
ちなみに、日本におけるスタウトは、「ビールの表示に関する公正競争規約・第4条」によって、「濃色の麦芽を原料の一部に用い、色が濃く、香味の特に強いビール」と定義されている。つまり、日本の規定では、イギリスやアイルランドとは違って、必ずしも〈上面発酵〉でなければならない、という文言はなく、例えば、〈下面発酵〉であっても、日本では〈スタウト〉と名乗るのは規約違反ではないそうだ。
事実、日本では、キリンビールの「一番搾りスタウト(二〇一三年二月まで)」や、サッポロビールの「ヱビス スタウト クリーミートップ』は〈下面発酵〉だったそうだ。ちなみに、日本の、いわゆる〈黒ビール〉のほとんどは〈下面発酵〉である、との事である。
もちろん、日本にも、イギリスやアイルランドと同じ〈上面発酵〉のスタウトもあって、例えばそれは、キリンの「キリンスタウト(二〇〇八年八月に製造終了)」や「一番搾りスタウト(二〇一三年二月以降)」、あるいは、アサヒビールの「アサヒスタウト」は〈上面発酵〉なのである。
要するに、日本では、下面発酵のスタウトも上面発酵のスタウトも存在してきたようだ。
簡単に言ってしまうと、最終的に酵母が下層に沈み込むのが〈下面発酵〉で、低温で長期間貯蔵したタイプのビールが、いわゆる〈ラガー(独:lager)〉である。これに対して、〈エール(英:Ale)〉は、常温で短期間で醸造されるのだが、最終的に酵母が浮かんで上面に層を作るので〈上面発酵〉と呼ばれ、こちらが、アイリッシュのスタウトで、ギネスがこれに当たるのだ。
これまで書き手は、キンキンに冷やして、一気にグイッと飲むのが〈ラガー〉で、常温でチビチビ飲むのが〈エール〉だと、ざっくりと区別していたのだが、冷やすのか、それとも常温なのか、という飲み方は、もしかしたら、醸造過程の温度に由来しているのかもしれない。
とまれ、日本には、常温で飲むエール系のスタウトだけではなく、法の逆手をとって、本場のアイルランドのギネスとは違った、ラガー系のスタウトも存在している分けだ。
現在、ギネス社の認可に基づき、世界各地でギネスが販売ないし製造され、それゆえに、認可国の中には、自国でギネスの製造を行っている国もあるそうだ。
ちなみに、日本国内では、二〇〇九年六月まで、「ギネス」の販売権を持っていたのは「サッポロビール」だったのだが、それ以降は、「キリンビール」が、ギネスの販売を行う事になった。
そして実は、二〇〇九年まで販売権を持っていたサッポロビールは、いつかギネスを製造する計画も抱いていたそうだ。
結果として、日本では、キリンが輸入されたギネスの販売を行っているのみで、独自の製造は行われていない。
という事は、黒ビールの代表は、輸入ビールの「ギネス」であるのは確かなのだが、日本では、各ビール会社が製造・販売している、二つの製法の黒いビールも楽しむ事ができるようである。
〈参考資料〉
〈WEB〉
『GUINESS』(英語サイト)、二〇二三年九月二十三日閲覧。
「スタウト」、『キリンビール大学』、二〇二三年九月二十三日閲覧。
「ドラフトギネス 330ml缶」「キリン一番搾り〈黒生〉」、『キリンビール』、二〇二三年九月二十三日閲覧。
「キリンビール、黒ビール『一番搾り スタウト』の後継商品となる『キリン一番搾り『黒生〉』を発売」、『日本経済新聞』(二〇一七年七月二十四日付)、二〇二三年九月二十三日閲覧。
「アサヒスタウト」、『アサヒビール』、二〇二三年九月二十三日閲覧。
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