第41匙 巾広麺とカレーの相性:カレーメン京(E09)

 スタンプラリーのコンプを目指すのならば、平日の昼のみ営業の、限定された状況下にしか行けない店から優先的にクリアすべきであろう。

 このような観点から、イヴェントが開始された八月には、〈昼〉にしか行けない店を訪れる、という戦略を書き手は採った。

 かくして、お盆明けの八月の金曜日に、書き手は、注文可能時間、わずか一時間半という「エスペリア」に開店凸した次第なのだ。


 そのエスペリアで食した「キーマカレー」のご飯は、カレー沼の中央に在る白米島というデザイン故にか、然して量それ自体は多くはなく、もう一皿くらい食べられそうな余裕がお腹にあった。そこで、エスペリアを出てから、同じ日の昼に、書き手が〈はしご〉先として選んだのは、秋葉原の岩本町界隈に位置している「カレーメン京(みさと)」であった。

 ここはOLも頻繁に訪れるようなオシャレな店なので、料理の量が多くはないように思えたからである。


 さて、「カレーメン京」は、昼はカレーメンを提供している店なのだが、実は、夜は、パスタを中心とした、イタリア料理のリストランテに変貌する、そんな、昼と夜とで別形態の料理店なのだ。

 しかし、どうやら〈間借り営業〉の店ではなく、同一のオーナーが、昼はカレーメン、夜はパスタを提供しているようで、昨今では、そういったスタイルの営業形態を〈二毛作店〉と呼ぶらしい。


 ところで、カレーメンとは、いかなる料理なのだろう?

 カレー〈そば〉なのか、カレー〈うどん〉なのか、カレー〈ラーメン〉なのか、それとも、カレー〈パスタ〉なのであろうか?


 「京」の「カレーメン」は、カレーそばやカレーうどん、あるいは、カレーラーメンのように、カレー味の汁に麺が入っている分けではなく、丼のような器の底に麺があって、その上に、汁気少なめのカレーが敷かれている。この点を考慮に入れ、あえてこういった言い方が許されるのならば、汁なし麺や、油そばに近い印象である。


 しかし、さらに言うと、カレー・スパゲッティともちょっと違った印象で、そう感じた理由は、書き手がこれまで食べてきたパスタのほとんどは細長い麺で、これに対して、「京」の麺は巾広だからだ。


 この店の「カレーメン」を一体どう表現したらよいものか、と頭を悩ませながら、後日、パスタについて調べてみたところ、一概に〈パスタ〉といっても、その種類は五〇〇以上もある事を書き手は知った。


 参照したサイトによると、日本で最もよく目にする〈ロング・パスタ〉にも様々な種類があって、例えば、麺の太さで細かく呼び名が違っており、いわゆる、我々が〈スパゲティ〉と呼んでいるパスタは、直径〈一.四から一.九ミリ〉の棒状のロング・パスタの事を指し、これに対して、直径〈〇.八から一.一ミリ〉の、スパゲティよりも細いロング・パスタを〈カッペリーニ〉と呼ぶ。ちなみに、カッペリーニとはイタリア語で〈細い髪の毛〉との事らしい。


 そしてさらに、違っているのは太さによる呼び名だけではない。そもそもパスタの太さの違いは、麺とソースとの相性の問題に起因していて、傾向として、細いものは軽いソース、太いものは濃厚なソース向きで、例えば、細麺である〈カッペリーニ〉は、汁気の多い軽いソースや、冷凍パスタとの相性がよいそうだ。


 そしてさらに、ここで着目したいのが、巾広の〈タリアテッレ〉という種類のパスタの存在である。

 ちなみに、タリアテッレは、イタリア中部や南部では〈フィットチーヌ〉と呼ばれているらしいのだが、とまれ、歴史的にいうと、タリアテッレはローマ時代から食べられてきた伝統的なパスタで、その特徴は、麺が平たく、その巾が〈五から十ミリ〉という点だ。

 さらにいうと、タリアテッレよりも巾広い、巾〈二〇ミリ〉の〈パッパルデッレ〉というロング・パスタさえ存在するらしい。


 日本で、巾広の平らな麺というと、パッと思いつくのは、やはり〈きしめん〉であろう。『日本農林規格(JAS)』は、巾〈四.五ミリ〉以上、厚さ〈二ミリ〉未満の帯状の麺を〈きしめん〉と定義しているので、巾広の麺という点において、〈タルアテッレ〉はきしめんに似ている、とも言えるであろう。だが、「カレーメン京」が夜はパスタ店となる〈二毛作店〉である事をここで思い出すのならばやはり、この店の「カレーメン」は〈タリアテッレ〉に近い、とみなすのが適切であるようにも思われる。


 そして、太麺は、その性質上、濃厚なソースとよく合う分けだから、巾広の〈タリアテッレ〉のようなパスタが、カレーとの相性が抜群なのは必然なのではなかろうか。

 

〈訪問データ〉

 カレーメン京:秋葉原・岩本町エリア

 E09

 二〇二三年八月十八日(金)十四時十五分

 カレーメン(出汁で炊いた十五穀米付き):一〇〇〇円(現金)


〈参考資料〉 

 「カレーメン京」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、六十三ページ。

〈WEB〉二〇二四年七月二十二日閲覧。

 「パスタの種類いくつ知っていますか?ぜひソースに合わせて使い分けて」(作成日: 二〇二〇年二月十二日、最終更新日:二〇二〇年四月三日)、『DELISH KITCHEN』

 「きしめん辞典」、『名古屋よしだ麺』

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