第11匙 昭和四十八年、五十歳を迎えたアキバ最古の人情カレー専門店:ベンガル(A05)

 書き手は、ピークを外して、平日の〈おやつどき〉に秋葉原界隈の「ベンガル」に赴いた。

 神田明神下の〈昌平橋通り〉の秋葉原側に面している店の前には、カレーグランプリの幟の隣に、茶色地に黄色文字の「49年 秋葉原 カレー一筋」という店の幟が並び立てられているのだが、それが目当ての店の目印である。


 この旗の数字が示しているように、ベンガルの創業は、半世紀前の昭和四十八年、一九七三年七月の事なのだ。

 二〇二三年は五十周年イヤーに当たるはずなので、旗の数字の「49」も、近いうちに「50」に置き換えられる事だろう。


 幟には、「秋葉原で カレー一筋」と書かれてもいたのだが、実は、二〇二三年今現在、「ベンガル」が、昌平橋通りに面した〈外神田三丁目六の一 丸山ビル一階〉に位置するようになったのは、五年前の二〇一八年三月十六日の事であるらしい。それ以前には、一九七三年から二〇十七年八月まで、同じ外神田三丁目〈十〉の〈日加石油ビル〉の一階に在ったそうだ。

 その移転の理由は、店が入っていた建物の老朽化ゆえの取り壊しが理由であるらしい。しかし、移転前の、かつての赤いテントが目印の「ベンガル」の在りし日の様子は、店のホームページにリンクが貼ってある動画によって知る事ができる。ちなみに、閉店から移転までに半年以上の期間が開いたのは、〈外神田三丁目〉という場所に拘りがあったからだという。

 とまれ、一度の移転はあったものの、秋葉原の外神田三丁目で「ベンガル」は五十年もの間、営業を続けてきたのである。


 テーブルの上には、料理提供の待ち時間用の〈QR〉コードがあって、それを読み込むと、端末で「ベンガル物語」というサイトにアクセスできるようになっている。


 そのサイトによると、「ベンガル」の初代オーナーの「笹本陽子」氏は、学生時代から香辛料の研究に携わり、毎年夏にインドで食べ歩きをし、そして、大学卒業後には香辛料専門輸入会社に入って、やがて、それまでの知識と経験を活かして、「ベンガル」を開業した、という。

 その「ベンガル」が提供する「純インド風カレー」は、「各国から集められた香辛料の中から上質なものを選び、さらに味の決め手になるカレー粉は特別にブレンドし、1~2年ねかせて使用し」た、かくの如く、氏のスパイシーな知識と経験が込められたカレーであるらしい。ちなみに、開業当時は「チキン骨付きカレーの辛口」が店唯一のメニューであったそうだ。


 やがて時は流れ、二〇〇六年、笹本氏の引退後、「浅見文隆」氏が二代目オーナーを引き継ぐことになった。


 大学時代に、ドイツ語圏のスイスに留学し、帰国後には、香辛料貿易会社に就職、のちに、独立して、香辛料貿易会社を起業、そして、平成十八年から「ベンガル」のオーナーに就任、というのが浅見氏の経歴である。


 そんな浅見氏がオーナーとなってからの「ベンガル」の看板メニューは「ビーフ角切りカレー」なのだが、以前、書き手はこのカレーを注文した事があったので、この日は、未だ頼んだ事のない「ビーフ薄切りカレー」を辛口で注文した。

 件のガイドブックにおいて、「酸味と苦みが効いた辛口が一番人気」と推されていたので、書き手は辛口を選んだのだが、かつて口にした「ベンガル」のカレーが相当辛かった記憶が舌に残っていたので、食後の口内のリフレッシュのためにも、書き手は、マンゴーラッシーの注文も忘れなかった。

 

 二〇二三年の夏に五十周年を迎えた、外神田三丁目に位置してきた、カレー専門店である「ベンガル」は、初代の笹野氏がインド周遊、二代目の浅見氏がスイス留学、そして、オーナーは御二方とも海外経験が豊富で、さらに、オーナー達は、香辛料会社で働いた経験を持ち、それゆえに香辛料に熟知していた。だからこそ、「ベンガル」は、半世紀も続いてきた秋葉原最古のカレー専門店たり得てきたのであろう。


 さて、タイミングもあると思うのだが、何度か書き手が「ベンガル」さんを訪れた時には、二代目オーナーの浅見さんはご不在であった。だが、この日、書き手が訪れた〈おやつどき〉には、運よくオーナーさんがいらっしゃって、書き手の対応をしてくださった。


 先に見た「ベンガル物語」には、オーナーの浅見さんの御人柄を表わす、移転休業期間中の人情味溢れるエピソードが書かれていた。これに関しては、是非、書き手が参照した記事の方を読んでいただきたいのだが、その逸話を知った今、書き手には、半世紀もの店の継続とは、カレーそのものの美味しさも然る事ながら、経営者の人柄と店の雰囲気ゆえの事であるように思えている。


〈訪問データ〉

 カレー専門店ベンガル:アキバエリア・神田明神下

 A05

 八月八日・火・十五時

 ビーフ薄切りカレー・辛口(一〇〇〇)マンゴーラッシー(五〇〇):一五〇〇円(クレカ)

 『北斗の拳』カード:No.06「サウザー」(二枚目)


〈参考資料〉 

 「カレー専門店ベンガル」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、三十四ページ。

〈WEB〉

 『カレー専門店ベンガル』、二〇二三年八月十九日閲覧。

 「ベンガル物語」、『アキパス』、二〇二三年八月十九日閲覧。

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