第16話 イーディス・デュパン
抜き身の刀身。
それがイーディス・デュパンに対する印象だった。冗談で手を出そうものなら、一息で腕を両断されそうな、そんなイメージ。
腰に差してある武器が明らかに日本刀であることも、その想像を助長させているかもしれない。
「よろしくお願いします、オルクス殿」
身体を僅かに前掲させる礼、これも日本式。異文化、というか異世界に慣れて久しいが、こうして改めて見るとたしかにクールだ。
とはいえそんな所作や日本刀なんて、いったいどこで手に入れたのだろうかと疑問に思う。
どこかの国ではそういう文化が発達しているのだろうか。
「これが珍しいですか?」
鎧の奥に隠れているはずの視線に気づかれた。
「ああ、見た事がない武器だ。ずいぶんと細身だな」
「これは刀です。特殊な製法で、鉄を折り重ねて一本の剣にしています。私の生まれた国では、むしろこちらのほうが主流でした」
「そうなのか、勉強になるな。ちなみに出身はどこなんだ。大陸の西か?」
「私は大陸生まれではありません。こちらでは向こう国と呼ばれる、海の外側の国です」
「ほう、海の外側、か」
なにそれ行きたい!
海がある事は冒険者たちから聞いて知っていたが、その向こうにも国があるとは驚きだ。
誰も海の向こうのことは知らなかった。まさか海の向こうから来た人に会えるとは感激だ。
とはいえ、感情だけで話すわけにはいかない。俺は大人だし、子どものようにはしゃぎ倒して質問攻めにするなんて恥ずかしい真似はできない。
「生活様式はこの国とは違うのか? 人種は、住んでいる人たちは変わらないのか? 武器を持っているということは、冒険者やモンスターは出てくるのか?」
「お、オルクス殿」
「どうやって大陸へやってきんだ。海か、まさか空か? 時間は、移動時間はどれくらいかかるもんなんだ。どうすれば俺も海を越えられる?」
って、マズい止まらーん!
おいどうなってるんだ、誰か俺の口を止めろ!
「ふふっ」
と、ふいに脇腹を突かれたように、イーディスが笑い声を零した。
「噂に聞いていた飛び級冒険者がどんな人物かと少し不安でしたが、見た目よりもずっと子どもっぽくて安心しました」
そしてイーディスは今度、少しわざとらしく礼をした。
「いや失礼。上級者に対し、無礼な発言でした」
……意外だ。冗談は通じないと思っていたが、この態度。なかなかウィットに富んでいるんじゃなかろうか。
そしてそこへ、俺たちを呼び出した張本人が現れる。
「やあ二人とも、仲が良さそうでなにより」
俺たちはこいつ、イングレントにギルドへと呼び出された。
Aランク昇格条件を満たしたBランク冒険者と、Aランクの俺でパーティを組み、A級討伐クエストに挑戦するためだ。
条件をクリアしたBランクは、ここにいるイーディスと、あともう一人。
「こ、こんにちは」
イングレントの影から恐る恐る顔を出したのは、このあいだイーディスと一緒に撤退した魔法使いの少年だった。
名前はたしか……。
「彼はウィンプ・ルルゥ。イーディスと同じ、先日Aランクへの昇級条件をクリアした冒険者だ。今日は彼を入れた君たち三人でパーティを組み、クエストにあたってもらう」
はい、とイーディスが返す。
「今回、オルクスは監督役として同行することになる。つまりメインはあくまでもイーディとウィンプ、君たちということだ。頼ってばかりで不甲斐ない行いをすれば、むろんそれは審査に直接影響する。たっくさん気張ること。以上だ」
「委細承知しました」
「わ、わかりましたぁ」
「じゃあ行くか」
クエストは事前にイングレントによって決定されている。
内容もすでに知っている。もちろんパーティの仲で俺だけが。
可哀想だが、少し辛い目に合ってもらうことになる。言ってしまえばドッキリみたいなことだが、ちゃんと命が掛かっているのだから失敗は許されない。
二人とは違う理由で、俺の心臓はバックバクだ。
「お、オルクスさん、いいでしょうか、その、質問しても」
ギルドを出てすぐに、ウィンプが声を掛けてきた。
「どうした?」
「き、今日、その、討伐に行くも、モンスターは一体……?」
「おおそうか、言うのを忘れていたな。すまん」
今のは自然に言えていただろうか。少し自信がない。仕方ないだろ、嘘は苦手だし、演技なんてした事ないし。
「これからお前らに討伐してもらうモンスター、それは」
「それは?」
「オーク」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、二人の不満タラタラな悲鳴が木霊した。
オークの何が嫌なんだ、言ってみなさいほら。聞いて上げるから。
______________________________
ちなみにオークの討伐ランクはC。
怪力だが愚鈍、愚直。およそ戦闘に耐えられる頭ではない。
そんな中、
次回『頑張れBランク』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます