第13話 魔法スゲー?
「馬鹿だね君は。アーミィベアなんて、たとえAランク冒険者でも十人以上で対処するモンスターだぜ。それを一人で行くなんてどうかしてるよ、最高だ」
「貶してんの? 褒めてんの?」
フルプレートメイルの残骸を挟んで、イングレントが対面に座る。
「君がそれを選んだと聞いたときはさすがにやばいかなぁ、なんて思ったけど、元気に帰ってきてよかったよ」
「まあな、これくらい大した事……」
「こいつも無事ならなお良かった。高かったのに」
「ごめんなさいでした」
調子に乗ってしまって。
「まあ壊してしまったものはしかたない。とりあえず代えを用意するけど、どうせなら君が心置きなく戦闘を行える程度のものが欲しいね」
「いやいざとなったら脱ぐからいいよ」
イングレントがスッと右目に手を当てて威嚇してくる。
はい、ナマ言ってすみませんでした。
「ソロでフットワーク軽くクエストをこなしてくれるのもありがたいんだけどね、他のランクの冒険者とも積極的にパーティーを組んで欲しいんだ」
「無茶言うぜ。ていうか危ねえだろ。バレる可能性が増えるだけだぞ」
それでもなのさ、とイングレントは神妙に言う。
「Bランク以下の冒険者たちには、君を含めたAランク冒険者の実力を肌で感じて、たくさん刺激を受けてもらいたい」
「前に言ってたスパルタ計画か」
スパルタ? とイングレントが首を傾げる。いけね、またやっちまったか。最近会話の量が多くて、うっかり転生前の言葉が出てきてしまう。
なんて考えて、はて、と疑問に思った。
この世界の誰かに俺が転生者だと知られると、一体どうなってしまうのだろうか。
俺を転生させた神様的なサムシングからは、特にその辺りの忠告はなかった。あれから一度も会ってないし、この先俺の前に現れるとも思えない。
そもそも魔法があるくらいだし、この世界での転生自体あり得るものなのか、逆にまったく荒唐無稽のものなのか、そのあたりよくわかっていない。
王家に認められた特A級の魔法使いであるイングレントなら、あるいはすんなり受け入れたりするのだろうか。
ああ、なるほど。だから君は喋れるんだね。なんて感じで。
……なんだろう。すごく落胆されるような気がする。なんかイングレントのそんな表情が目に浮かぶ。
ま、俺ってばただでさえオークなんだし、これ以上属性増やしても俺自身が対処しきれないし、面倒なことになっても嫌だし、今は黙っておこう。
決して、チヤホヤされてる今の環境を失いたくないからじゃないし!
「そうだオルクス、君読み書きができないんだろう。適当にクエストを選ぼうとして、よりにもよってアーミィベアを引くくらいだ」
「そりゃあ文字なんて必要なかったからな。いい機会だし、ちょっとずつ勉強するさ」
「いい心意気だから否定するつもりはないけどね、さっきも言ったように物の分別がつけられる程度にはなってもらいたいんだよ。今すぐに」
「そんな魔法みたいなこと」
「そんなことができるから魔法なのさ。私は前衛で戦う魔法戦士だが、本来後方支援が本職だよ。殺気や悪意を感知する魔法を応用して、文字の意味を認識できるようにする」
「魔法スゲー!」
「チッチッチ、魔法がすごいんじゃないぜ。私が万能なのさ」
立ち上がったイングレントが俺の頭に手を当てる。ポワっと彼女の手を中心に光が集まり、渦を巻いているのが見える。
「おー」
やがて光が砂粒のように散り始め、ゆるやかに霧散していった。
無事に終わったのだろうか。
気になってイングレントを見上げると、両手で顔を覆って天井を仰いでいた。
「あー、そうだね、そうだったね」
「え、なに、なんなの。成功したの? 俺は文字が読めるようになったの?」
「いや申し訳ない。私の魔法では無理だった」
無理なのは見りゃわかるけど、にしては反応が大げさすぎやしないか。
「愚かだ」
「それはあれか、俺が馬鹿すぎて魔法がかからなかったってことか?」
イングレントはそれを否定したが、結局どういうことだったのかは、どんなに食い下がっても話してくれなかった。何なんだ一体。
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こんな事もある。
お許しくださいな。
次回、今度こそ『商業ギルド』
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