島とバケモノ②

 地図にはっていない「名なしの島」。地図にけいさいの理由は不明だ。アダムにたずねても、あんのじょう教えてくれなかったから。


 地図に載せられないほどの秘密がある。その秘密とはなんなのか……?

 バケモノのこと? 本当にそれだけ? 他にも、なにかあるのでは?


 もっとも、ルナたちの〝業界〟において地図に不掲載の島など、とりたててめずらしくもないのだが。たとえばおおしまのように、ここ日本でも過去には存在していた。


 たいていは軍事的な理由で地図には不掲載だ。大久野島の場合は化学兵器のせいぞうきょてんこっみつの島だった。


 二〇二九年現在、似たような理由で地図には不掲載の島が世界中にはいくつもある。陸の孤島めいた場所に隠されている秘密の施設なんかも、世界中にはたくさん。


 ルナたちが向かう先もそのうちのひとつなのだろう。――名なしの島も。


 誰が名づけたのかは知らないが、そう呼ばれていた。ネットでも、ネット以外でも。

 千葉県ぼうそうはんとうの最南端からさらに南東へと進んだたいへいようおきに、その「名なしの島」は浮かんでいる。


 島に関するネット上の書きこみは、古いものからかくてき新しいものまであるにはあるが、ルナたちが調べたかぎりだとそう多くはない。一部の物好きがおりにふれてうわさにする程度で、大々的に話題になったことは一度もなさそうだった。


 そんな名なしの島の面積は、およそ七・八平方キロメートル。アダムから受け取った資料にはそう記されている。〈がさわらしょとうあにじまの面積と、ほぼ同じ〉ともさいされていた。


 で? それで……?

 名なしの島にいるらしいバケモノを、そいつを倒せだと!?


 いいだろう。われわれは虫カゴインセクト・ケージだ。われわれこそが本物のバケモノなのだから。せいえいぞろいの戦闘集団。


「どうせ勝つさ、インセクト・ケージわれわれがな」


 気がかりなことが多いみょうな依頼ではあるが、任務はかんすいする。それがインセクト・ケージだ。ぬれている窓の外に目を馳せたルナは、自信に満ちあふれた声で言いきった。


「ふだんどおりのれいてつさで事をなす。ただ、それだけのこと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る