3 島とバケモノ

島とバケモノ①

 東京都西にしぐんみずまちざいにちアメリカくうぐんこうくうえいたいよこ基地が近いそんな場所に、十分前までテストを受けていた多目的アリーナがある。二〇二〇年代後半に入ってからえられたモダンなデザインのアリーナが。


 そのとなりの広大なしきには総合病院がちんしていた。だいいちコマドリぎょうりつびょういん。同病院も雀矢セキュア・ソリューションズが運営しており、社員かその関係者しか利用できない。


「正体不明の依頼人といい、夢みたいな前金の額といい、とびきり嫌な予感がしますね」

 SUVが雨でぬめった車道に出ると、運転席のリカルドが苦い声を出した。


 前金の非常識な額からして、やんごとなき人物か組織が依頼人でまちがいないとは思うが……。ルナたちの古巣のかんも確定的だが、徹底して隠そうとする。

 古巣の米軍極秘機関がどの程度関わっているのかは定かでないが、そこから独立したインセクト・ケージの口のかたさはご存じだろうに。仕事の成功率を上げるために事前に完璧なデータを欲しがる組織であることも。

 それなのに、何度頼んでも依頼主の素性を明かしてはくれなかった。倒すべきバケモノの情報も教えてくれないし、そのバケモノがいるらしい島についてたずねてもなしつぶてだ。

 よほど、めんどうな事情があるというのか……?


「嫌な予感がするのは、この仕事の常だ。島にはまず、われわれ三人で向かう」

 ルナは頭のなかでスケジュールを確認した。「少佐はの調査をけいぞくするからな」


「そういや、いましたね、大学生が。例の学生、あれがなんだっていうんですか?」

 助手席のドラガンが訊いてくる。それについてはルナのほうが訊きたい。


 あの彼、例の大学生、かずとは何者なのか? 


 三間和希の調査を終えたら、ダレン・ガモン少佐も追って島に上陸する予定だ。


「さあな。謎ばかりだ。合流後の、少佐の報告に期待しよう」と答えたルナの声に、雨をぬぐうワイパーの音が重なった。

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